第859号 外国人労働者拡大問題

2018年11月3日 (土) ─

 2日、政府は外国人労働者の受け入れ拡大のための入国管理法改正案を閣議決定しました。

◆事実上の移民政策転換 
 従来、日本国内で働く外国人は、高度な技能を持つ専門職や、技能実習生、留学生のアルバイト等に限られてきました。今回の改正案では、一定の技能を持つ外国人労働者を幅広く受けいれ、熟練した技能を持つ外国人は在留資格を更新して、家族と共に事実上永住することを可能とするものです。 

 安倍総理は国会答弁で、移民政策を採ることは考えていないこと、今回の法改正の目的は、人手不足解消のため、技能を持った即戦力の外国人を、期限を付けて日本に受け入れようとするものに過ぎないことを強調しています。 

 しかし、いわば「一時しのぎ」だとする総理の説明とは裏腹に、我が国で少子高齢化が進む現在、いわゆる「働き手世代」を示す生産年齢人口の比率はすでに60%を切っており、人口は2050年代に1億人を割り込むことが確実視されています。 

 たとえ総理の説明どおり、原則的には期限を付けた労働力の受け入れだとしても、入れ替わり立ち代わり多数の外国人労働者が国内で生活することになれば、外国人労働者への依存は高まり、将来的に恒久的な移民政策へと踏み出さざるを得ない事態が予想されます。

◆外国人労働者問題の本質 
 外国人労働者の受け入れに対しては、治安の悪化や、日本人の職が奪われる恐れがあることを理由とする慎重論があります。しかし、私は、外国人労働者受け入れ問題の本質は、労働改革や再分配政策に積極的に取り組まず、低賃金で働く労働者の不足を外国人によって補充することで、社会の現状維持を図ろうとする政府の姿勢にあると考えています。

 現状でも、例えば地方の農林水産業や物づくりの現場では、日本の技術を学ぶという名目で外国人技能実習生が多く働いていますが、彼らの多くは低賃金で過酷な労働環境に置かれています。厳しい労働環境下では、日本人労働者は集まらず、そのため外国人に依存しなければならない状態が進んでいるのです。

◆まずは日本人の労働力移動が必要 
 我が国は、古代は大陸から優秀な技能集団の移住を許し、近代においてもお雇い外国人を通して西洋の技術を吸収し、多様性ある社会を築いてきました。その点で、移民を全く否定するつもりはありません。しかし、単に低賃金労働者の補充としてしか外国人労働者を捉えないのであれば、大量に外国人を受け入れることで日本社会との軋轢が生じていくと思います。 

 人手が足りないから外国人に労働力を依存するという発想の前に、労働の効率化支援や実質賃金の向上、所得の低い層への減税措置による格差是正策などを通して、人手不足の現場への日本人の労働力移動を促すことがまず必要です。 
 それでもなお労働力が不足するという場合に初めて、敬意をもって外国人労働者の受け入れを考えるという姿勢で臨むべきで、拙速な大量の外国人労働者受け入れは慎むべきと考えます。(了)

 

森ちゃん日記「地域主権の発信」
 人口減少社会における地方が抱える雇用問題は、若者の都市部への人口流出をどのように食い止めるかが鍵を握っています。東京や大阪などの大都市への就業が集中していく中で、奈良市でも毎年500名弱の転出超過があります。大阪、京都がその中心で、県外就業率が全国1、2位を争う奈良県がこの課題に真摯に取り組むことができるのかが今問われています。特に女性が働く上で、3人に1人が働く場を県外へと選択せざるを得ない現状から、県内における低賃金就労の是正と子育て環境の整備、この両面から問題を見つめなければなりません。 

 県内には大企業をはじめ、本社機能を持つような企業の絶対数が少ないと指摘されますが、中小企業を中心とする地場産業の中にこそ、地域独自の働き方を柔軟性を持ち合わせながら率先していく可能性を秘めているはずです。 

 全国へと発信できる奈良の魅力を若い世代へと継承していくため、地方のことは地方が決める、そんな新しい価値観を創出していく若者の声に耳を傾ける県政が求められます。次代に対して責任を持てる若い世代が、今こそ声をあげて、誰もが活躍できる、一人一人が居場所と出番のある社会づくりの一歩を踏み出して行かなければなりません。

第859号 外国人労働者拡大問題