第850号 安倍・石破論争を斬る 

2018年9月1日 (土) ─

 9月20日に投開票される自民党総裁選は、安倍総理と石破元幹事長の一騎打ちの様相です。今回は両者の主張する政策について考えます。

◆変わらぬ増税路線 
 国民の最大の関心事である経済政策については、安倍総理が従来の路線の継続を主張しているのに対し、石破議員は、安倍政権下での経済成長率は統計方法の見直しでかさ上げされており、実は低迷していることなどを主張し、経済政策の転換を主張しています。 

 しかし、その具体策となると石破氏の主張は必ずしも明確ではなく、踏み込み不足は否めません。 

 特に、経済政策の最大の争点であるはずの来年10月の消費税10%への増税について、「今度の先送りはあってはならない」と述べるのみで、増税路線を採る安倍総理との間に違いは見られません。消費増税は自民党内の共通理解のようですが、デフレ脱却が果たせない状況下では、逆進性が高く低所得者に不公平な税制です。存在感を示せていない野党は今こそ消費増税ではない財政再建と景気浮揚策を主張すべきです。

◆自民党内の強い中央集権的思考 
 私が考える安倍政権の最大の特徴は、中央集権の強化にあると思いますが、石破氏は逆に地方や中小企業を重視し、衰退を続けている地方経済の活性化を図ることで、国民の消費を喚起するビジョンを示しています。 

 この中央と地方の関係性は、国の根幹に関わる大きな争点となるべき問題ですが、自民党内で石破氏の考えに賛同が広がらないところに、現在の自民党の中央集権的思考の強さが見て取れます。

◆国民置き去りの憲法改正論 
 両者で最も激しい議論となりそうなのは、安倍総理が次期臨時国会にも国会提出を目指している憲法改正案、特に外交・安全保障に密接に関わる9条の改正です。 

 安倍総理が、現状の戦力不保持、交戦権の否認を定めた9条2項はそのままに、自衛隊の存在規定だけを付け加える「加憲」を主張しているのに対し、石破議員は、2項の削除を含めた抜本的改正を主張しています。 

 安倍総理は、一見穏健な案のようにみえ、3項に自衛隊明記だけで済むかのように語りますが、戦力と最低限の実力について2項改正が求められることになり、9条全面改正につながるものです。また、石破氏の2項改正は、軍隊創設を意味するものであり、現行憲法の精神を損ねるものになりかねません。 

 安倍案は、自衛隊の存在だけを規定しても、その装備や活動についての憲法上の根拠や限界が明らかではないため、安保法制制定の時に見られたような、解釈による改憲の余地を残すところに問題があると思います。また、2項を削除して解釈の矛盾を解消する形の改正を主張する石破案については、日本の国是として他国と同じような通常の軍隊を持つべきとの主張はあまりにも国民の意思から離れ過ぎていると感じます。 

 本来必要なのは、賛成反対だけでなく、国家のあり方を含めた熟議です。国民の間に議論の成熟が無い今、次期国会で改憲発議というのは余りにも性急だと思います。(了)

 

森ちゃん日記「地域力の担い手」 
 人手不足という言葉が、日常生活における地域の自治会活動にまで浸透しています。 

 自治会活動の担い手不足は、その仕事量の多さと、地域が抱える課題が近年増加し、複雑化していることに起因していると感じます。その結果として、役員が回ってきても断ろう、自治会には入りたくない、そんな声が沸き起こってしまい、地域の決め事や行政に対する要望など、生活におけるさまざまな課題への繋がりが希薄化し、本来の地域問題が見えにくくなってしまいます。 

 地域の高齢化や担い手不足によって、自治会組織の形骸化が進み、夏祭りが中止となった地域も少なくありません。しかし、反対に、SNSを活用して若者が集まり何十年も開催されてこなかった夏祭りを復活させた、という地域があるのも事実です。その地域によって課題はさまざまですが、きっと地域のために何かをしたいと思う若者は一定数どこかにいて、その声に地域としてアプローチできるかが地域力の差となっているのではないでしょうか。 

 秋には各地で秋祭りが開催されます。そんな、地域の豊かさを守るためにも次のバトンの渡す受け皿となるきっかけが一つでも多く作られることを期待しています。

第850号 安倍・石破論争を斬る