第839号 米朝会談問われる日本の姿勢

2018年6月16日 (土) ─

 12日、初の米朝首脳会談が開催され、朝鮮半島の非核化に向けての努力等が盛り込まれた合意文書が交わされました。

◆両首脳にとっての「成功」
 首脳会談を受けての合意文書では、現在停戦中の朝鮮戦争の終結や、北朝鮮の「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」のプロセス、そして北朝鮮の体制保障等についての明確な言及はなく、両国を拘束する国際法的な意義で見れば、具体的な成果は乏しかったと言えます。しかし、政治的に見れば、首脳会談はトランプ大統領、金正恩委員長両首脳にとってメリットの大きいものであったと考えます。

 北朝鮮にとっては、アメリカとの直接対話と体制の保障は長年の悲願であり、核兵器と長距離ミサイルの開発も直接対話のための取引材料でした。

 金正恩委員長にとっては、祖父や父が成しえなかったアメリカ大統領との会談を実現させ、当面のアメリカによる武力行使を事実上回避することに成功し、かつ、CVIDのプロセスを明確化しなかったことにより、手持ちの「カード」を温存する可能性を残したことは、外交的な勝利として国内外の自らの権威と立場を高める大きな意義があります。

 一方、アメリカにとって会談の最大の関心事は自国の安全保障であり、長期的な国益を考えると、北朝鮮のCVIDのプロセスを明確化できなかった会談結果に成果があったのかは疑問です。しかし、あくまでトランプ大統領個人の短期的な成果となると話は別です。

 会談実現に至るプロセスで、北朝鮮で拘束されていたアメリカ人の解放に成功したこと、歴代大統領と異なり、自らの取ってきた「最大限の圧力」が北朝鮮を対話の道に引き出したとアピールできたこと、朝鮮戦争中の捕虜や行方不明兵士の遺骨収集に合意出来たこと等は、今秋の中間選挙に向けてトランプ大統領個人のリーダーシップを印象付けるには十分でした。

◆日本にとって「成果なし」
 一方、安倍総理はトランプ大統領に対して、会談で拉致問題を話し合うよう要請していましたが、問題提起はされたものの、合意文書には何も明記されませんでした。CVIDのプロセスが示されなかったことも合わせて、日本にとっては具体的な成果の無い首脳会談だったと言えます。それどころか、トランプ大統領は、途方もつかない巨額に上ると見られる北朝鮮の非核化費用は、「日韓が負担すべき」だとも主張しています。このままでは、日本が交渉に主体的にコミット出来ないまま、米朝が日本の資金で互いに利益を得るという結果につながりかねません。

 こうした会談をめぐる動きには、アメリカと一体化して北朝鮮と対峙するとしてきた日本外交が、アメリカの急激な方針転換に対応しきれていない姿が見てとれます。

 主体的な外交を展開すること無しに、アメリカとの同盟関係を依存関係に置き換えて、それで良しとしてきた日本外交のツケが出ているように思えます。北朝鮮とも独自のルートで毅然とした交渉を行い、同盟国アメリカにも物申す関係が、今、求められています。(了)

 

森ちゃん日記「日大は真の価値を見出せるか」
 先日、日本大学校友会奈良県支部の総会に出席しました。総会で講演された、吉野本葛で有名な天極堂代表取締役の井ノ上さんをはじめ、奈良県内にも約700人もの日大OBが各分野の第一線で活躍されています。来賓挨拶では、大学の危機に直面する日大が真摯に今回の問題に取り組み、トップダウンによる古い体質を一新して前進していく覚悟を持たなければ、日本大学に明日はない、との厳しい言葉も聞かれました。

 諸先輩の話によると、半世紀前、大学側による巨額な使途不明金に端を発し、学生が声を上げ全国的な社会運動へ展開されました。あれから50年、大学側と学生との信頼体制は本当に変化したのか疑問だ、と聞かされました。時代背景も変革し、今は学生自身が声を上げる事が難しい時代でもあります。だからこそ全国116万人の校友会が学生を守るためにできることがある、と感じています。問題が第三者委員会へと移る中、真実が公に公開され、自浄努力が前面に打ち出された大学運営を校友会も強く望む姿勢を感じました。全国に親睦を深める総合大学の強みから出身大学社長数が全国一を誇る校友会が、各分野で活躍する事から始まる日大ブランドの復活と、私たち一人ひとりが新しい日大への一歩を強く発信できることを望んでいます。

第839号 米朝会談問われる日本の姿勢