第687号 派遣労働者問題の本質

2015年5月16日 (土) ─

 12日、派遣労働の期間制限を一部撤廃する労働者派遣法の改正案が衆議院本会議で審議入りしました。これまで2度廃案になった法案ですが、政府は今国会中に確実に成立させたいとしています。

◆改正案の内容
 現在、労働者派遣法では、派遣労働が常態化しないようにという配慮から、通訳など専門性の高い26業務を除いて、同じ事業所での派遣労働者の受け入れ期間を最長3年間に制限しています。

 今回の改正案は、業務による区別を廃止し、派遣の受け入れ期間の制限を撤廃する一方で、1人の派遣労働者が企業の同じ部署で働ける期間は3年とするなどとしています。つまり、同じ部署でも3年以内で人を替えれば、派遣労働者をずっと受け入れ続けてもよい、ということになるのです。

 安倍総理はこの改正案について、「改正案では派遣会社の責任を強化し、派遣期間が満了した場合、正社員になったり別の会社などで働き続けることができるようにする措置や、計画的な教育訓練を新たに義務づけるなど、派遣就労への固定化を防ぐ措置を強化している。」と述べています。

◆低賃金・低待遇が問題
 この政府案に対しては、派遣労働者が一生正社員になれずに事業者に使いまわされる恐れがあり、決して容認できないとする意見があります。派遣労働自体が問題であって、みんなが正社員になるべきであるという主張です。

 一方、多様な生き方を尊重し、様々な働き方を認めるべきであるとの声もあります。これは、家族の問題や仕事に対する価値観などから、派遣労働を選択したい労働者も一定数存在し、さらに雇用市場の視点からみれば、派遣労働には人材の流動化を促す効果があるという考え方がもとになっています。

 しかし、派遣労働者問題の本質は、派遣労働者が正社員とほぼ同様の業務に従事した場合でも、正社員と比べて支払われる賃金が低いことや、年金などの社会保障が薄いことにあります。厚生労働省発表の統計によると、月平均賃金は正社員・正職員が約32万円なのに対し、正社員・正職員以外は約20万円となっています。こうした格差は出来る限り是正していかなければなりません。

◆同一価値労働同一賃金
 正社員とそれ以外の労働者との賃金格差を是正するための1つの方法としては、「同一価値労働同一賃金」の考え方が挙げられます。これは雇用形態などが違っても、同じ質と量の労働に対しては同額の賃金を支払うべきであるという原則のことで、国際労働機関憲章の前文で宣言されるなど、基本的人権の1つと考えられているものです。

 年功序列や終身雇用を前提とした賃金制度を取る企業が多いわが国で、これをそのままの形で導入するのは難しいという特殊事情はありますが、雇用形態における賃金の差を一定の枠内に納めるなどの修正をした制度を導入し、賃金格差を是正していくことは可能です。あらゆる雇用形態の労働者に対する年金や社会保障の充実と共に、ぜひ取り組んでいきたいと考えています。(了)

 

スタッフ日記「生活のルールが変わる」
 現在、憲法改正が話題になっていますが、今国会では日常生活のルールを定めた民法が実に120年ぶりに大改正される予定です。

 1896年に施行された現行民法は、戦後、家族関係に関する部分は改正されましたが、財産関係部分には大きな改正がありませんでした。

 ちょっと面白い例を紹介します。

①飲み屋のツケは5年有効に
 現行民法では飲食店の料金について、1年間行使しない時は時効で消滅すると規定しています(170条4号)。つまり、飲み屋で「ツケにしといて。今度払うわ」と言って、そのまま1年間お店からの取立てを逃れられれば、人間としての責任はさておき、法律上は料金を支払う必要がなかったのです。しかし、改正によってこのような権利は5年有効と統一されるので、そうそう簡単には逃げ切ることはできなくなります。

②敷金が原則返ってくる
 たいていの場合、部屋を借りる時には大家さんに敷金を支払います。もともと「返ってくる」と聞かされて払う敷金ですが、退出のときにあれこれ理由をつけられて返ってこないこともよくあります。
 ただ、不思議なことに現行民法では敷金についての定めはなく、慣習的なものとして扱ってきました。改正案では敷金を「家賃の担保」と定義し、部屋の賃貸が終了して部屋を引き渡したときには貸主に原則的に返還義務が生じると明記しています。

 法律というとお堅いイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、日常ルール感覚で学んでみると得をすることもあるかも知れません。      (アタリ)

第687号 派遣労働者問題の本質