第472号 海上警察権

2011年1月8日 (土) ─

 海上において主権と安全をしっかりと確保していくことは、国家として当然の責務です。特に我が国は四方を海に囲まれた島国であり、主権を脅かす行為は海からなされることを考えると海上保安庁の職務は極めて重要です。近年、多数の外国漁船が同時に我が国領海内に侵入して操業したり、我が国の領土に対して領有権を主張する外国人活動家の船舶が領海内に侵入する事件が発生するなど、我が国の領海をめぐる情勢は大きく変化し、海上保安庁の現場の緊張感は大変高まっています。

 一方戦後60年余り、海上保安庁の職務について定める海上保安庁法は細かな改正等はありましたが、概ね警察権のあり方については大きな議論が行われておりません。とりわけ司法警権と行政警察権に対しての今日における国際条約、あるいは環境に即したあり方というものについてはほとんど議論がなされてきませんでした。このため行政警察権の範囲及び具体的な行使の権限が必ずしも明確ではありません。

 特に昨年の尖閣諸島沖漁船衝突事件をめぐっては、問題の本質として、海上警察権のあり方そのものの議論が喫緊の課題と考え、昨年末に「海上警察権のあり方に関する有識者会議」を設置し、有識者の方々に取りまとめをいただきました。このとりまとめを基に政務三役で議論を行い、さらに現場で働く海上保安官の意見を聴き、任務を遂行する中でどのような課題があるのか等についてさらに詰め、7日に制度改正の具体的な検討を早急に進めるべく「海上警察権のあり方に関する検討の国土交通大臣基本方針」を発表いたしました。

◆行政警察権の充実 
 海上保安庁の警察権にはまず司法警察権があります。これは犯罪の捜査、被疑者の逮捕など原則として刑事訴訟法で規律されます。尖閣諸島沖の事例で言えば国内法に則って公務執行妨により逮捕したことはこれに当たります。一方で、海上保安庁の警察権には行政警察権と呼ばれるものがあり、違法行為の予防、事案発生時の鎮圧、再度の違法行為の防止等の目的で行使されます。最近の我が国領海を巡る情勢に的確に対処するには司法警察権の範疇のみならず行政警察権の拡充が必要不可欠です。しかし行政警察権に基づく抑止行為等については現状の海上保安庁法においては必ずしも十分な規定がなされていないなど、不備な点が存在します。このため、「基本方針」では例えば事案発生前の段階では、違法行為の発生をできるだけ抑制するため、違法行為を行う可能性の高い船舶を早期に把握・選別し、疑いを認識した段階から警告を発し、場合によって領海外への退去をうながし、事案発生時については強制的な立ち入り検査・具体的停戦措置を明確化するなど、事案発生前から事案発生後に至るまでの各段階においての必要な措置を現場の海上保安官が的確に執ることができるような法制度の導入を提案しています。海上保安庁の制度や体制を十分に整備するとともに、現場の高い士気を維持していく環境整備が私の重大な責務と考えた次第です。(了)

 

スタッフ日記「未来へ向けて」
 年初めのこの季節は、労働組合さんの会合に出席する機会があります。「民主党は組合に応援されてるから、あかん!」と、お叱りを受けることもあるのですが、そもそも人間が社会に参加し、生きる糧を得ることを「労働」と仮定すれば、働く者が協力し社会的な役割を果たすことは、私はとても大切なことだと考えます。立場の強くない労働者が人間らしく扱われる事を求めて労働運動は始まりました。その後二つの世界大戦を経て、国境を越えて労働者の団結を求めた流れと、労働運動とはいえ国家あっての事だとする流れに分岐していきます。その流れは冷戦下日本でも続き、1989年に歴史的和解が行われ、いわゆる連合が生まれます。21世紀の今、私たちには新たな社会の枠組みを構築することが求められています。地球は人間だけのものでは無く、政治も労働運動も、自らの枠組みを超えた取り組みが求められているのだと思います。   (チュー)

第472号 海上警察権