安保法整備の与党合意

2015年3月20日 (金) ─

 自民党・公明党は、20日、昨年7月1日の閣議決定を受けての、「安全保障法整備の具体的な方向性」に実質合意した。昨年7月の集団的自衛権行使容認の閣議決定については、与党内での解釈に食い違いがある部分もあったが、今回の合意で、与党が正式に憲法解釈変更に基づく新たな法的枠組みを容認したことになる。その内容は、集団的自衛権の行使を可能にすることに加え、自衛隊の海外での活動範囲・内容を拡大するものであり、戦後日本が守ってきた平和主義を大きく転換させ得るものである。また、手続き面においても、4月の統一地方選を控えた政治日程の中、与党の限られたメンバーの間だけで不透明なプロセスのもと、拙速に決定されたものであり、国民の十分な理解や合意は得られていない。このように内容・手続き両面で、本合意については、大きな懸念を抱かざるを得ない。

 論点は大きく分けて三つある。それは、(1)安保法制改正の具体的な理由・目的が示されてないこと、(2)明確な「歯止め」がきちんと示されていないこと、そして、(3)法整備に伴うはずの「リスク」の説明が決定的に不足していることである。

 (1)、(2)については、法整備の目的として、例えば、朝鮮半島有事への対応を想定するならば「地理的限定」を加える、といった具合に、明確な目的を設定することは、際限なき集団的自衛権の行使を防ぐ上で極めて重要な意味を持つ。しかし、これまでの政府自民党の検討の進め方を見ると、「集団的自衛権行使容認」ありきの、理念先行の議論に見える。本来であれば、理念先行のやり方ではなく、具体的な安全保障上の脅威を特定した上で、それに対処するための現実的な法整備を行うというのが筋である。この議論の順序を逆にしてしまっていることが、各種世論調査で、集団的自衛権の行使を可能にする昨年7月の閣議決定に対して、7~8割の人が「説明不足だ」との認識を抱いているそもそもの原因ではないか。安倍政権は、まず、この国民の疑問や不安に真正面から答えるべきである。

 また、(3)について、自衛隊の海外での活動を拡大することは、当然、リスクも伴う。1990年代に専守防衛の方針を変更し、解釈改憲の方法で北大西洋条約機構(NATO)の域外派兵に乗り出したドイツは、アフガンの後方支援で、自爆テロや銃撃などにより、少なくとも35人の犠牲者を出している。こうしたリスクと正面から向き合い、それでもなお、海外に自衛隊を送る「現実的な」理由があるのか、その真面の議論と説明をする姿勢が、安倍政権には決定的に欠けている。

 具体的に合意内容を見ると、外国軍隊への後方支援に関する恒久法の制定については、「現に戦闘が行われていない現場」という不明確な概念が使われていること、PKO法改正による武器使用を伴う治安維持任務については、戦闘に巻き込まれる可能性が高くなり得ること、周辺事態法において「周辺」概念を削除することについては、派遣地域の拡大を招くこと等、自衛隊の海外での活動範囲は大きく拡がり、危険な紛争地域で歯止めなしに活動が行われてしまう危険性がある。憲法の平和主義の範囲内で、理念先行ではなく、「現実主義の」外交安保政策として自衛隊の活動範囲の拡大というオプションがあり得ることは必ずしも否定しない。しかし、これらのリスクを踏まえてもなお自衛隊の活動範囲を拡げる現実的かつ具体的な理由があるのかを、エビデンスを示しつつ厳密に検討(バランシング)していくことこそが、この議論の本質である。この点を安倍政権はないがしろにしている。

 また、自衛隊の活動範囲拡大のオプションを取る場合には、「歯止め」の仕組みは不可欠である。与党は、自衛隊の海外派遣について、国民の理解が得られるよう、国会の関与等の民主的統制が適切に確保されること等の「新3要件」を定めるとしているが、要件の文言があいまいで、具体的にどのような場合に派遣が認められるのかがはっきりしない。そして、国会の関与については、事前承認を「基本」とすることという、例外を認め得る書き方となっており、手続き面でのチェック機能が不十分である。総じて、政府の個別的な判断により、なし崩し的に自衛隊の海外派遣が認められてしまう恐れの高い法案に繋がりかねない。

 我が国の領土や領海、国民の生命財産を守り、国際平和に貢献するために必要な措置を取るべきなのは当然である。しかしその措置も平和主義を基本理念とする憲法のもと、その目的とリスクをきちんと提示した上で十分な国民的議論と合意を経たうえで行われるべきものである。国民、国会の議論を経ずに与党内の合意のみで、拙速に、国益に重大な影響を及ぼす安保法制の方針を決定することを、断じて許すことは出来ない。安倍政権に対して国会における徹底的な議論を求めていく所存である。

安保法整備の与党合意