「冷温停止」の真の定義を

2011年9月28日 (水) ─

 先般、原発の耐震設計についての問題点を指摘した。
2011年9月22日 まぶちすみおの不易塾日記 「原子力発電所の耐震設計について(その1)」
2011年9月22日 まぶちすみおの不易塾日記 「原子力発電所の耐震設計について(その2)」

 そして、もうひとつ「ロードマップ」に書かれていることで、問題だと思っていることがある。それは「冷温停止」についてだ。

 そもそも冷温停止とは何か。通常運転中の原子炉の場合、「冷温停止」とは、「原子炉の水温が100度未満の安定した状態」を意味している。

 つまり、水の蒸発量を抑えることができ、継続的に安定した冷却が可能となっている状態である。

 しかし、事故を起こした原子炉に関して、「冷温停止」に当てはまる定義はないが、燃料を完全に水で覆う水棺が不可能となった中、水をかけて蒸気を発生させて冷やしている状態は、本来の意味である冷温停止状態ではない。

 このため、政府・東京電力統合対策室では、事故の収束に向けた道筋の中で、「冷温停止」について、新たに以下のように定義づけている。

(1)圧力容器底部温度が概ね100℃以下になっていること。
(2)格納容器からの放射性物質の放出を管理し、追加的放出による公衆被ばく線量を大幅に抑制していること。

 政府が目指す目標である以上、それが国民に安心を与えるような意味を持つ定義付けが必要だ。

 上記定義のように、単にわかっているデータだけを示す一方で、わからないことには目をつむり、地下や内部の目に見えないことを考えなくてもよいかのような姿勢では、国民に何の安心も与えるものではない。

 そもそもメルトダウンしてどこにあるかわからない燃料に水がかかって発生した水蒸気の温度を計っても、100℃以下になるのは当然なのだ。

 まずは、原子炉内の燃料が本当に反応が収まっているのか、周辺への放射性物質の拡散が抑制されているのか、現在のサイト内の状態を明らかにた上で、どのような対策を講じて、どういう状態を目指しているのか、明確になる定義付けが必要である。

 例えば、燃料はいったいどこにあるのか?燃料はどのような状態にあるのか?どのくらい圧力容器、格納容器は破損しているのか?

 これらがわからない中、圧力容器底部の温度を測定することに何の意味があるのか。

 また、空中、地下へどのくらいの放射性物質が流出しているのか?どれくらいサイト内の空気や地下水が汚染されているのか?

 このような現状すらわからない状況で、放射性物質の放出を管理しているといえるのだろうか。本来は、これらがわかった上で、「冷温停止」がいかなる状態を示すのか、定義付けを行うべきである。

 では「冷温停止」の定義をどう考えるべきか。

 それは、国民を安心させるため、現在の状況を明確にした上で、下記の2点を「冷温停止」の条件とするように改めるべきである。

(1)溶けた燃料が100℃以下に安定的に冷却されている状態
 現在発表されている温度は、もともと燃料があった圧力容器底部の温度であり、メルトダウンして格納容器や圧力抑制室も破損してそれより外に流出している状況では、溶けた燃料の温度を示しているわけではない。

 したがって、溶けて圧力容器から落ちた燃料がどこにあるのかを特定し、その燃料自体の温度を測定するべきであり、そうでなければ、冷却時に発生している水蒸気の温度(約100℃)を測定しているだけにすぎない。

(2)放射性物質の外部流出が抑制された状態
 圧力容器内に存在していた放射性物質は、事故直後にベントや水蒸気爆発に伴って大量に空中に拡散し、現在は冷却水によって洗われて地下に流出し続けている。空中、地中にどれだけの放射性物質が流出しているのか、モニタリングを実施し、情報公開した上で、判断は客観的に行うべきである。

 特に、未だ公開されていない各建屋地下の滞留水及び周辺の地下水の汚染状況を時系列に示した上で、抑制されているのかどうか判断する必要がある。

 現実的には、地下水による汚染拡大の抑制が困難である以上、上記提案の定義による「冷温停止」の年内実現は困難であると思われる。

 にもかかわらず、あいまいな定義づけにより達成したことを国内外に発信することは、逆に日本政府の信用を失う結果となりかねない。

 達成するかしないかは、定義次第であるという姿勢は即座に止めるべきである。

「冷温停止」の真の定義を