第511号 米韓FTAの実態 

2011年10月22日 (土) ─

 我が国でTPPの議論が行われだした一方で、10月12日には米韓FTA(自由貿易協定)の実施法案が米国議会を通過しました。国賓として訪米中の李明博大統領とオバマ大統領は共同会見を行い「近い内に韓国国会でも批准(ひじゅん)案が通過すると信じている」と述べ、さらに「win-win(相互利益)の関係を築く歴史的成果」だと胸を張りました。我が国ではTPP議論に対する閉塞感もあり、報道はいっせいに「韓国に後れを取るな!」との論調一色になりました。しかし、韓国と我が国との自由貿易に対する戦略的な違いや環境・条件の違いをよく理解し、さらには米韓FTAの中身についても客観的な評価に基づいた冷静な判断が求められると思っています。

◆韓国の立場 
 そもそも韓国と我が国では自由貿易について一番初めに定めたウルグアイラウンドでの立場からして大きく違います。この時は先進国は先行的に自由貿易を進め、途上国は各国の事情に応じて段階的に進める、という取り決めだったのですが、日本は94年に締結したのち、先進国側で、6兆1000億円の対策事業を決定しました。一方、韓国は途上国側で、もともと91年から行っていた農漁村構造改善対策4200億円の実施にとどまります。この段階では韓国の関税は農産品も鉱工業品なども日本より高い状態です。そしてその後97年7月に起こったアジア通貨危機より、11月にはとうとうIMF(国際通貨基金)に支援要請をする、という厳しい経済状況に陥ることになります。こうした状況下、韓国は高関税の中で様々な国との交渉を有利に導くための方策として、98年11月にはFTA積極活用方針を決定し、01年のドーハラウンドによってEPA(経済連携協定)やFTAが後押しされるようになると、各国と続けざまにFTA交渉を行ってゆくことになります。すなわち韓国はIMFの支援を受けるに至る経済状況の中で、途上国としての自由貿易戦略を組んできたのです。

◆米韓FTAの中身
 高関税率の韓国が米国との二国間協定を結ぶことを李明博大統領が「win-winを達成する道筋」と表現した事は理解しますが、このFTAにはかなり一方的な内容も飲まざるをえなかった事情が垣間見えます。鉱工業品関税率では、米国で2.5%、韓国では8%かかっている乗用車の関税をどちらも5年目に撤廃すること、トラックにおいては米:25%の関税を7年間維持した上で10年後に撤廃、韓:現在10%かかっているものを即時撤廃、となっています。その上、米→韓に輸入する自動車については、2万5000台までは、米国の安全基準を満たしていれば韓国の安全基準を満たしたものと認定する事や、自動車限定セーフガードなども定められています。このように二国間の交渉においても厳しい条件を突きつけられながら進めている現状をよく理解すべきです。

 一方で我が国では、ウルグアイラウンド対策で特に中身もなく6兆円も積み上げたにもかかわらず、「方針」→「計画」→「対策」→「交渉」というサイクルを組む事なく「成り行き」で交渉を行ってきたと言われても仕方がない点が多々あります。我が国においても本来求めるべき国益とは何か、開くべきは何かを考えていかなければならないことを、これを機に肝に銘じなければならないのです。 (了)

 

スタッフ日記「少しだけ心豊かに」
 最近は日暮れが早く、テレビでもシチューのCMが流れ、温かい物が恋しい季節になってきました。 

 昨年秋、事務所のご縁で月ケ瀬の茶農家さんと出会い、大和茶を頂く機会がありました。その時に「茶をおいしくいれる淹れ方」、つまり、お湯の温度、急須にお湯をそそぐポイントなどを、わかりやすく教えて頂き、実際に自分でお茶を淹れました。お湯が熱すぎると、お茶の苦み成分が出てしまうので、適度な温度になるまで何度も器に移しかえ、円を描くように丁寧にゆっくりと急須にそそぎます。ストップウォッチと自分の目で茶葉を見ながら、お茶が出るのを待ちます。 今までこんなに丁寧に、真剣にお茶を淹れたことはありませんでした。この時淹れたお茶は本当に香りがよくおいしくて、澄んだ緑色でとても綺麗でした。「お茶をおいしく飲んで欲しい」という茶農家さんの想いも伝わってきました。 

 その時いただいた茶葉は、丹精込めて作られた上質なものでしたが、何よりも丁寧に淹れることが大切なのだと感じました。色々な発見と驚きがあり、楽しいひと時でした。

 私も子供の頃は、急須でお茶を淹れていましたが、結婚して、夫婦2人のわが家には、急須はなく、夏場は手軽なペットボトルの飲み物ですませていました。お茶に限らず、今の時代は便利で、色々なものを簡単に手に入れることができます。毎日が慌しくて、いつの間にか大切なものを忘れてしまっているように感じていました。少し時間と手間をかけることで、心が穏やかになり、新たに気づいたり、感動したり、生活が豊かになるように感じます。 

 この秋は、まず急須でお茶を淹れることからはじめてみようかな。普段よりもだんなさんとの会話も弾みそうな気がします。(まーちゃん)

第511号 米韓FTAの実態