量的緩和の効果

2011年7月31日 (日) ─

 金融政策としての量的緩和の効果について、いまだ「明らかではない」との声もあるのだが、これについては相当程度研究が進んでいる(財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成22 年第1 号(通巻第99 号)2010 年2月、PRIDiscussion Paper Series (No.11A-03))。

 我が国のデフレ下の金融政策は、99年2月から00年8月までのゼロ金利政策、さらに01年3月から06年3月までの間のゼロ金利の下での量的緩和政策が行われてきた。いわゆる、非伝統的金融政策である。

 これらについての検証は、当初おおむね「総需要や物価に対して効果については検出されない」あるいは「ゼロ金利制約でない時期に比べて小さく、統計的に有意ではない程度のプラス」といった消極的もしくは否定的評価が多かった。

 しかし、これらはマネタリーベース増大の影響を分析するサンプル期間が85年から04年などと、量的緩和の時期を焦点にして行っていないなどの問題点があったと承知している。

 最近、こうした問題意識をもって実証分析がよくなされている。そして、むしろ量的緩和実施期間の実態と課題がより明らかにされているといえる。

 一番の課題と言えるのは日銀が実施した量的緩和の買いオペの内容である。

 白川日銀総裁が「現代の金融政策-理論と実際」でマネタリーベースと日銀の取引統計から量的緩和期間のマネタリーベースの推移を記している。これを見ると、量的緩和期間に当座預金残高は600%増、保有長期国債は160%増、マネタリーベースの増分の87%を長期国債残高で占めていると示している。

 しかしながら、日銀のBS上の長期国債の定義は「償還期限が一年以内の国庫短期証券を除く国債」となっていて残存期間についての区分はない。そのため、残存期間が短くても長期国債となる。残存期間が1週間でも償還期限10年物は長期国債となる。しかし、実態は短期証券の買い入れと同じものであり、オペの意味合いが変わってくる。

 量的緩和期間の日銀保有の長期国債平均残存期間は、5.5年から4.0年へと低下の一途をたどった。つまり、量的緩和実施の実態は長期国債の買いオペと言っても、残存期間1年以下の割合が高まるオペを実施していたことになる。

 白川総裁が、胸を張って実施してきたと称される量的緩和のオペの内容は実は違ったということである。87%という長期国債残高は実態上は8%にも満たない状況であった。逆に残存期間が一年以下の長期国債を含め短期とみなされるものは60%にも達する。

 日銀が量的緩和策として実施してきたと称する長期国債オペは短期オペに過ぎなかったと言わざるを得ない。

 そして、短期オペによる量的緩和は需要刺激効果をほとんど有しないとされる。日銀が少なくとも行った量的緩和は残存期間の短い国債が中心となっているためバーナンキFRB議長の言うところの「ポートフォリオ・リバランス効果(日銀当座預金は利息を生まないため、この残高が大きくなれば金融機関はより有利な運用先を求めて企業への貸し出しや債券・株式投資などに資金を回し実体経済に影響を与える効果)」を期待しにくい資産買い入れだったと言える。

 量的緩和の効果が定かではない、とする日銀の言い分はこうしたオペ上の問題をはらんでいることを忘れてはならない。

 そして、こうした金融当局のある意味不作為による状況をもって、金融政策の大胆な実行を阻害させることだけは許してはならない。

量的緩和の効果