第863号 入管法改正に潜む日本の課題

2018年12月1日 (土) ─

 27日、外国人労働者の受け入れ拡大を柱とする入国管理法改正案が、衆議院法務委員会及び本会議で強行的に採決されました。

◆法案から見える日本の現状
 今回の入管法改正案は、直接的には外国人労働者の受け入れ拡大の是非が議論の対象となっていますが、この法案には、現在の日本が抱える様々な問題が凝縮されていると感じます。

 まずは、働き手を外国人に頼らざるを得ないという人口減少問題です。この点については、人手不足は労働の効率化や労働環境の是正によって解消できるという主張も考えられますが、いずれにせよ今後、日本の人口の加速度的な減少が見込まれることは事実です。人口減少をどのように補うか、人口が減少しても社会の活力と成長を維持していく方法があるのではないかということも含めた議論が必要です。

 次に、中央と地方の格差の問題があります。人口減少は地方において特に顕著です。地方の農林水産業は後継者に悩み、現在においても外国人の技能実習生に頼らざるを得ない現場が生じています。中央と地方の格差を放置したことが現状を招いたのではないか、今後、地方の活性化を外国人労働者に頼るのか、そもそも将来における地方のあり方はどうすべきかが問われています。

 そして、日本人自身の労働問題があります。現在、失業率自体は低く推移しているものの、低失業率の下で本来発生すべき賃金上昇は十分ではありません。

 そして、過労死防止などの働き方改革もまだまだ不十分です。なぜ実質賃金が上がらないのか、なぜ長時間労働の是正が不十分なままなのか、そして外国人労働者を大量に受け入れ現状を補うことは、今のままの労働環境が温存されることにつながらないか等について議論がなされるべきです。

◆野党対案に期待
 こうした多岐にわたる論点があるにもかかわらず、衆院法務委員会でわずか17時間程度の審議で法案審議が打ち切られ、衆院本会議でも可決されてしまったのは非常に残念です。

 もっとも、議論が不十分なまま強行的に採決されてしまうのは、安保法案や共謀罪法案などでも見られた安倍政権の特質であり、来年の統一地方選、参院選挙の争点となるのを避けて今国会で速やかに成立させてしまいたい政府与党の意図も透けて見えてきます。

 今回、野党の中では国民民主党が、外国人の技能実習制度の抜本見直しを柱とする外国人労働者問題の対案を用意して、参院における審議を求める方針を示しています。

 審議拒否や担当大臣への不信任案の提出のみで争うやり方には限界もあります。野党への国民の支持が広がらない原因の一つになっていた面があり、対案を示して争う姿勢は評価できると思います。

 今のところ、野党の足並みは必ずしもそろってはいませんが、ぜひ野党全体で、上記のような様々な争点を示し、日本の未来の姿を示す骨太な議論が行われることを望みます。(了)

 

森ちゃん日記「くらしの中にあるチャレンジ」
 先日、県内市町村の若手職員が中心となって地域の魅力ある政策をアピールする奈良県市町村政策自慢大会が奈良春日野国際フォーラムで開催されました。今年で6回目を数える本大会は、県内15市町村が参加し、大賞には「王寺らーめんトライアル事業」が選ばれました。JR王寺駅周辺の空き店舗にらーめん限定のチャレンジショップを出店する、という斬新なアイディアが若者を中心としたラーメンブームを上手く取り込み、開催期間中には2千人超の人が王寺駅周辺の商店街を訪れ、かつての賑わいを取り戻したそうです。

 地方による商店街の空き店舗、地域による空き家をどのように活用していくべきなのか。奈良市でも平成25年調査で空き家の総数は21,290戸で全体の12.5%にも昇ります。地域別に見てみると、近鉄奈良駅周辺のならまち界隈から、都跡中学校区エリアまでの広範囲で全体戸数の5%以上が空き家となっており、市内東部、西部間で大きな差があります。平成27年からは空き家の活用を促進し、若い世代にも広く発信するための奈良市空き家・ならまち町家バンクのHPが開設され、所有者と利活用者を全国で繋ぐ取り組みが注目されています。

 豊かな文化財を守っていく奈良の魅力をどのように全国へ自慢していくべきか私も考えていきたいです。

第863号 入管法改正に潜む日本の課題