アメリカのトランプ新大統領は、23日にTPPからの永久離脱の大統領令に署名し、従来の政策の大転換を始めました。国際情勢が混沌とする中、日本も難しい舵取りが求められます。

◆甘い見通しに基づいた外交
　大統領選中、クリントン候補とのみ会談を行うなど、トランプ候補の敗北を前提に外交を展開していた安倍総理にとって、トランプ大統領誕生は完全に「誤算」だったと思われます。

　まずはじめに影響が出たのはロシアとの関係です。

　これまで対立していたアメリカとロシアの関係は、トランプ候補当選によって、好転する期待感が生じ、ロシアにとっての日本に対する重要性は低下したと言われています。

　その影響もあり、先月の日ロ首脳会談は、北方領土問題にはまったく進展が見られないまま、日本が3000億円に上る経済協力を行うだけの結果に終わりました。中長期的な交渉進展を期待しつつも、外交的に見れば「失敗」といわざるを得ません。

　次に、TPP（環太平洋経済連携協定）です。

　総理はTPPを経済成長の目玉と位置付け、昨年秋の臨時国会で強行採決を行い、関連法案成立を急ぎました。

　今回、トランプ大統領の離脱表明を受け、総理は24日の本会議答弁で、「TPP協定が持つ戦略的経済的意義についても、腰を据えて理解を求めていきたい」と述べました。しかし、アメリカがTPPの協議を再開する可能性が低いのは明らかで、戦略は完全に破たんしています。

◆バラマキ外交の効果
　また、総理は今月、東南アジア諸国とオーストラリアを歴訪し、安全保障体制や経済協力について各国との首脳会談を行いましたが、これに関してもロシアとの交渉同様、「バラ撒き」色が強いものの、見返りは薄く、効果を上げているとは言えない状況です。

　例えばフィリピンに対しては、南シナ海での中国の領有権主張問題に対して協力を求めるとともに、1兆円の経済支援を表明しています。

　しかし、フィリピンは、昨年中国からの巨額の経済援助を受けることを合意しており、ドゥテルテ比大統領は南シナ海の中国との領土問題を不問にする気配すらあります。

◆事実・証拠に基づく検証を
　今後、日本を取り巻く国際情勢は厳しさを増すことが予想されます。

　トランプ大統領は、外国からの製品輸入に国境税を課すことを検討しているとされ、また、貿易不均衡についても日本を名指しで批判しています。アメリカとの貿易が滞れば、日本経済への悪影響は避けられません。

　それに加えて、大統領選で何度も主張していた在日米軍駐留費の日本の負担増などの踏み込んだ要求を日本に突き付けてくる可能性も排除できません。

　今年はフランスや韓国で大統領選挙が、ドイツで連邦議会選挙が、中国では共産党大会が行われます。グローバル経済がほころびを見せ始め、テロの脅威が台頭する中、これらの結果次第では、世界はさらなる混沌へと向かいます。

　外交の失敗は時として国の将来を左右しかねず、その意味で「誤算」は許されません。「誤算」を繰り返さぬよう、事実・証拠に基づく厳密な検証を行い、それに耐えうる外交こそが、日本の国益につながるものと考えます。（了）

 

スタッフ日記「PNSP」
　昨年後半、日本で話題をさらったといえばピコ太郎の「PPAP」（ペンパイナッポーアッポーペン）でしょう。日本だけではなく、世界中で動画が再生され、トランプ大統領のお孫さんが真似した動画がニュースで流れるなど、空前絶後のブームとなりました。

　多少落ち着いたものの、今でもCMに起用されるなど、ピコ太郎人気は健在です。

　そんな中、国立劇場が「PNSP」なる動画をアップしました。略さずに言えば「ペン・ヌリサンポー・サンポー・ペン！」。ペンは筆、サンポー＝三方は神事のときにお供えを乗せる台（鏡餅を乗せる台、といったら想像しやすいでしょうか）、ヌリサンポー＝　塗三方は三方に漆を塗ったもののことです。

　赤い毛氈（もうせん）の上に、紋付き袴姿の7人の男性が並んでいます。そして空気を切り裂くような横笛の音を合図に演奏が始まり、太鼓、「ヨーオ！」という合いの手、それから鼓、とまるで能のようです。

　しかし、厳かな雰囲気の中、おもむろに国立劇場のゆるキャラが登場すると、三味線・長唄の歌い手による歌が入り、おなじみ「PPAP」のメロディーと踊りが始まります。

　国立劇場は日本伝統芸能の最高峰機関です。その演者の皆さんですから、その実力は折り紙つき。「PPAP」でありながら、きちんと「和の音楽」として成り立っています。そしてみんなマジメな顔で演奏しているのに、クスッと笑ってしまうチャーミングさがあります。

　「邦楽・伝統芸能の普及に一役買えれば」と作成されたそうですが、「わかりづらい」と言われがちな政治の世界もこの身軽さを見習いたいものです。（シズ）