第762号 懸念残る農産物への影響

2016年11月5日 (土) ─

 TPPは、日米を含む環太平洋諸国が、農・工業製品の関税撤廃や、サービス業の市場開放などを通じ、自由な貿易圏を構築しようとする試みです。

 しかし、TPPはメリットばかりではありません。国際的な自由競争に巻き込まれた結果、安い輸入品に対抗できず、生き残るのが困難な業種が出てくるおそれがあります。

 特に農林水産物、その中でも、米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖の原料の重要5品目への影響は大きいと見られ、慎重な対応が求められています。

 このため、衆参両院の農林水産委員会は、日本の交渉参加を前にした2013年に、この5品目を重要項目として、「段階的な関税撤廃も含め認めないこと」などを政府に求める決議を行っています。

◆拙速な承認は避けるべき
 しかし、アメリカとオーストラリアから合わせて年間8万トン弱の米の輸入枠を新設、麦や牛肉・豚肉は、段階的に関税を引き下げるなど、政府のTPP交渉結果は、この国会決議の趣旨に反した内容でした。

 また、先日は輸入米の価格をめぐっても大きな問題が発覚しました。国が公表する落札価格よりも大幅に安い価格で卸売業者が販売できる状態になっていたのです。

 こうしたことも含め、政府の説明や姿勢は信頼できるものではありません。これでは農家の皆さんの不安は募るばかりです。

 現在、世界は保護主義の流れを強めつつあります。その背景には、世界がグローバル化した結果、格差が拡大し、特に中間層が経済的に厳しい状況に置かれている、という先進国共通の課題があります。

 我が国においても、格差の拡大は深刻です。そこに手を打たずに自由貿易を進めれば、格差がさらに拡大するだけの結果となる可能性があります。

 したがってTPPによって自由貿易を進めるのであれば、同時に、格差を是正する方策を示さなければなりません。しかし、現在の政府にそれができているとは言えません。こうした状況で、拙速な承認を行うことは避けるべきです。

◆伝統と発展の両立を
 私は自由貿易を進めることに反対というわけではありません。しかし、守るべきところはしっかりと守らなければなりません。

 たとえば、農作物を育てる田畑や農業技術は歴史的・文化的な面から見ても、しっかり次の世代へ引き継がれて欲しいものの一つです。

 自由貿易が進み、経済的合理性のみが追及されることにより、このような伝統が絶える事は絶対に避けなくてはなりません。

 一方で、我が国の農産物輸出は増加しており、大和野菜のようなブランド農産品を輸出することで市場を拡大し、発展させていくことは充分可能です。

 農家の皆さんや国民の不安にまずは応え、伝統保持と発展のバランスの取れた農政が実現出来るよう、取り組んでいきたいと思います。(了)

 

スタッフ日記「山装う」
 先日、大台ケ原に行きました。早朝、まだうっすらと朝焼けの残る朝方に出て、吉野を抜け、車でゆられ1時間半、標高1695mの日出ヶ岳から見下ろす山々は鮮やかに紅や黄に染まりつつ、鼻にツンと冷え込んだ空気とともに秋の訪れを感じさせてくれました。

 その日はとても良いお天気でした。実は大台ケ原は、屋久島にも並ぶ日本で最も雨の多い地域とのことで、山頂で雲一つない絶景を目にすることは珍しいらしく、大変にラッキーでした。

 気候を反映して、全体的に苔むした森の多い大台ケ原ですが、正木ヶ原という場所だけは違っていました。笹が一面を埋め尽くし、葉を枯らした大木が立ち並んだり、横たわったりしているのです。その光景は雲の上に突き抜ける無数の塔のようで、何とも幻想的でした。

 実は正木ヶ原周辺も40年ほど前までは、一面コケで覆われたうっそうとした森だったそうです。それが、1959年の伊勢湾台風により森林が破壊され、山頂の生態系をも変化させていったのだそうです。

 今は点々と苗木が防護ネットの中に植樹されており、氷河時代から現在までの気候変化を語る生き証人とも言われている大台ヶ原のトウヒ林と紀伊半島本来の生態系を取り戻すための努力がそこかしこに感じ取れました。その取り組みは、環境省の自然再生事業にも指定されているそうです。

 豊かな四季を感じにくくなってきている昨今ですが、山を登ることの厳しさと楽しさ、そして自然から元気をもらう、心の癒しの場としての貴重な財産を後世に伝えることの偉大さ、大変さを学んだ一日でした。(特命係長)

第762号 懸念残る農産物への影響