第725号 マイナス金利は正しい

2016年2月6日 (土) ─

 1月29日、株安と経済減速が懸念される中、日銀は史上初めてマイナス金利の一部導入に踏み切りました。

◆金融緩和は正しい
 「マイナス金利」は、民間銀行の日銀への当座預金に手数料を課し、金利を実質的にマイナスにすることを指し、金融緩和策としての効果があります。

 これは、日銀への預金を増やすと損をすることになる民間銀行が資金を民間に貸し付けるようになり、市場に資金が流れるからです。

 日銀が金融緩和に舵を切ったのは2013年に現在の黒田東彦総裁が就任してからですが、それより前の2011年8月に行われた民主党代表選挙で、私は大胆な金融緩和の必要性を主張し、以来、その重要性を訴えてきました。

 私が金融緩和を主張してきた理由は、資金を増やすと、国内では①物価の上昇を促し、デフレと経済縮小のスパイラルから脱することができる、②企業の投資を促せる、③国際的には円安誘導で企業の輸出競争力を高められる、以上のような効果があると考えられるからです。

 また、日銀への預金に金利を付けると、銀行が民間に貸付を行う意欲を削いでしまうので、廃止すべきだということも同様に主張してきました。こうした意味で、私はこれまでの日銀の金融緩和策と今回のマイナス金利の一部導入は正しいと考えます。

 一方、マイナス金利が適用されるのは、日銀当座預金の一部に過ぎません。今回プラス金利が維持された基礎残高(昨年1年間の当座預金の平均残高)部分にもマイナス金利を適用するなど、さらなる金融緩和の検討も行われるべきです。

◆金融緩和を活かせない政府
 安倍政権の「第一の矢」であった金融緩和政策は、株価が上昇するなど一定の効果を得ました。しかし、2014年度の実質GDPがマイナスになるなど、経済状態は一向に良くなりません。これは消費増税と、成長戦略実現のための改革が進まないことに原因があります。

 もともと安倍政権は「第一の矢」とともに「第二の矢(機動的な財政政策)」と、「第三の矢(規制緩和を柱とする成長戦略)」を掲げ、改革に取り組むとしていました。

 しかし、その実態は公共事業一辺倒の従来型の財政出動と、「既得権」という聖域を打ち破ろうとしない迫力不足の成長戦略で、旧来の経済成長モデルを引きずった不十分なものでした。結果として第二・第三の矢は不発に終わり、金融緩和の効果による景気回復のチャンスを無駄にしてしまっています。

◆成長のための再分配
 金融緩和は重要ですが、金融緩和に頼るだけでは持続的な経済成長は実現しません。成長の基礎となる国民の消費を長期的に高めていくためには、将来の不安を取り除く再分配政策が必要です。

 具体的には、年金制度改革や、経済の中心を担う若年世代への経済的支援や子育て支援の充実、労働者間の賃金格差の是正などがそれにあたります。

 既得権に切り込む改革と共に、こうした再分配政策も含めた、長期的な成長を実現できる経済政策を練り上げ、政府に主張して参ります。(了)

 

スタッフ日記「思い出のアーニー」
 10年以上前、アメリカでアーニーという事業家の手伝いをしたことがあります。

 アーニーは不動産事業を手広く行う一方で、事務所の前にうずくまっていたホームレスの女性を雇い入れたりもする心優しいおじいちゃんでもありました。

 あるとき、求人に応募してきた青年とアーニーとの面談に立ち会いました。

 「君にとっての人生の目標と夢は?」とアーニーが問いかけると、青年はあっさりと「生活していくためにお金を稼ぐ」と答えました。「君はクリントン大統領を知っているか?」アーニーは再び問いかけ、ゆっくりと諭すように話を始めました。

 生まれる前に父を亡くし、母と別れ、祖父母に預けられてクリントンは育ちました。その生活は苦しいもので、住んでいた町の「HOPE(=希望)」という名前とは裏腹なものだったと言います。しかし、小学生の時先生に夢を尋ねられたクリントンは「合衆国大統領!そして貧しい人を助ける」と答えました。その後、成長して中学・高校・大学と進んでも彼は一貫して同じことを答え続けたそうです。

 アーニーはそんな話をした後、「人生には様々な困難に満ちている。でも人は常に夢と目標を持って生きていかなければならない」と言って面談を締めくくりました。

 アーニーが亡くなってもう10年になりますが、アメリカでは大統領選挙が始まり、ふとそんなことを思い出しました。その青年が無事に就職できたのかわかりませんが、私も夢と目標に向かって頑張らなければ、とアーニーに背中を押された気がしています。(チュウ)

第725号 マイナス金利は正しい