第466号 砲撃の背景

2010年11月27日 (土) ─

 23日、朝鮮半島西側の黄海に浮かぶ韓国領の大延坪島周辺に、北朝鮮から数十発の砲撃が突如加えられ、韓国兵や民間人に死傷者が出ました。民間人の
住む島を突然砲撃する行為は断じて許せません。

 北朝鮮は表向きには米韓合同軍事演習の一環で行われた韓国の射撃訓練を理由としていますが、この訓練は1996年以降、定例で行っている訓練で特別なものではありません。砲撃の背景には何があるのでしょうか。

 今回の砲撃を金総書記に対する忠誠競争や、軍部の暴発との見方もありますが、金総書記周辺の中枢が関わっていると見るべきでしょう。25日、韓国の複数のメディアは北朝鮮が砲撃する2日前に金正日総書記と三男で後継者に決まった金正恩氏が、砲撃基地の指揮部隊を訪問していたと報じたこと、23日の北朝鮮の声明が金総書記が最高司令官を務める軍最高司令部の名の下に発せられたことからも、入念に計画した上で行った可能性を伺わせます。

 これまで北朝鮮が起してきた様々な事件は、北朝鮮内部の体制が節目を迎える時期に起きてきました。北朝鮮の最大の目的は体制の維持にあるからです。背景には、まず金正日総書記の三男、金正恩氏の後継体制作りとの関連がありそうです。同氏の軍内部での掌握力を強化することが一つの目的と考えられます。さらに、新たな指導者の国
内へのアピールや経済的困窮にある北朝鮮国民に対する引き締め効果もあります。

 また、米国を対話に引き出す狙いもあります。その目的は、朝鮮戦争の休戦協定に代わる平和協定を締結し、米国に現体制を認めさせることです。

 最近では北朝鮮が、訪朝した米科学者らに核兵器製造にもつながるウラン濃縮施設を公開したり、3回目の核実験を行う兆候ともとれる動きを見せていますが、今回の砲撃もその一環と思われます。砲撃前に米国のボズワース北朝鮮担当特別代表は、北朝鮮がウラン濃縮を進めている中では、核問題を巡る6カ国協議の再開は「考えられない」との厳しい認識を示しました。砲撃はこの態度への反発の意味もありそうです。また、国連の定めた境界(北方限界線:NLL)とは別に独自の海上境界線を設定している北朝鮮は、緊張状態を作り出すことで平和協定の必要性を演出することにもなります。

 北朝鮮による砲撃に以上のような背景があるのであれば、十全な警戒は必要ですが、本格的な戦闘につながる可能性はそれほど高くないとも考えられます。クローリー米国務次官補も「一度限りの行動。北朝鮮は軍事的対決の拡大は準備していないだろう」との見方を示しています。緊張状態を作り出す意図から行われた行為には冷静に対処すべきと思われます。

 一方、北朝鮮に強い影響力のある中国が今回もカギを握りそうです。クローリー米国務次官補は「中国の影響力行使を期待する」と述べました。このことは北朝鮮が中国にとって外交カードとなっている事を如実に示しています。中国は外交カードを維持すると同時に自国の共産主義体制維持の防波堤として、北朝鮮の現体制が続くことを望んでいると思われます。(了)

 

スタッフ日記「流れの中で」

 たまに事務所をお手伝いさせて頂いてます、大学生のKです。今年の10月時点で大卒の内定率が57.6%、大卒者の内定率がここ数年で落ち込んでいます。もちろん、景気の低下に伴って就職率がある程度変動するのは自然なことだと思います。

 ある人が雑誌の中で「大卒なんて4年間ボーッと過ごしているだけなのに、中卒や高卒の人間より高い賃金をもらおうとするのは不合理だ」と昨今の就職率の低下は当然というコメントをしていました。

 大学生がボーッとしているだけかどうかは置いておいて、この問題の本質的な部分は、そもそも「教育と労働は別物である」ということにあるのではないかと思います。

 例えば大学を出たら学士号という学位が頂けるわけですが、それがあると実際何ができるかというと、基本的に何もできないわけです。4年間遊び倒してしまった大学生と受験勉強終えたての高校生では後者の方が賢かったりすることも多々あります。企業は長年の慣行で4大卒を多く採用していますが、不況の今、「大卒は人件費が掛かる、使えない」と敬遠するのも自然な流れかもしれません。

 何かと移り変わりの激しい現代社会ですが、どんな環境にあっても自分を高めて一歩ずつ前進していくことが大切なのではないでしょうか。就職だけに関わらず、社会から、人から必要とされる為にはどんな自分になっていけばいいのか、2010年最後の1カ月、やり残しが無いようしっかりと考えてみたいと思います。(K)

第466号 砲撃の背景