新社会システム研究会報告書

2006年5月12日 (金) ─

 建築基準法等改正案質疑の75分。

 昨年の耐震偽装事件が契機となって、建築基準法等の早期改正が叫ばれてきたのだが政府案ならびに民主党案の両案審査となる。

 偽装が行われた現状をしっかり分析し、抜本策を講じなければならない。今回、政府案にある柱は、罰則強化とダブルチェック。しかし、これだけでは足りないことはさすがに政府も認識しているようで夏までに更なる案を検討するとしている。

 しかし、いまさら何を言っているのか?。

 再三指摘してきたのだが、前回の基準法改正の平成10年時点においても数多くの問題点は指摘されてきたのだが、それを放置してきたという行政の不作為の事実がある。あたかも、耐震偽装で初めて気づいて今必死になって対応策を検討中と言ってる様なものだが、もっと以前に留意し、予見すべき立場にあるのは明白だ。

 そして、今回そのことを証明する新たな「報告書」を入手した。

 平成14年、実に4年前に既に平成10年の改正では「基本的な制度的枠組みを維持しつつ行う対策には限界がある」として、抜本対策の研究を、国土交通省所管の国土技術政策総合研究所(国総研)で研究を進めてきたのである。そしてそのまとめが、「建築構造分野における品質確保のための新たな社会システムの制度及技術基準に関する調査業務報告書(新社会システム研究会報告書)」である。

 その中には、ピアレビュー(同等の専門能力があるもののチェック)、第三者評価システム、資格制度の見直しと倫理性の確保、大臣認定プログラム、保険制度の整備等今回の改正のポイントになるものすべてが網羅されているのである。

 そして、このことは昨年の2月に外部の委託機関である社団法人日本建築構造技術者協会(JSCA)から国総研に提出され
ていた。

 JSCAは耐震偽装発覚後、特定行政庁から構造計算の再計算を委託されていた団体で、団体の関係者からは「指摘してきたのに、放置してきたからだ」の怨嗟の声がもれ聞こえてくる。

 事件が発覚したのが昨年の11月。

 すぐさま、改正案の叩きとなる対策案が政府から示されたのも、実はこうした準備があったからである。言い換えれば、準備であったのではなく、遅きに失した実態が浮かび上がったのである。

 平成14年段階で、8年前の改正では限界があることが指摘され、問題点と改善策を十分承知しながらも今日に至った不作為の責任は極めて重いと断じざるを得ない。

 報告書でも、「事故や災害があるとマスコミに取り上げられ、規制強化のベクトルが働く」、「経済対策として建築物そのもののあり方についての議論が十分なされないまま規制緩和が行われる」という繰り返しなのである、と警鐘を鳴らしている。

 本当に、行政側がわが国にとってどのような建築物の構築を認めていくのか、ひいては建設産業そのものをどのような位置づけとして捉えていくのか、という大局を持たずして、抜本対策はない。

 これらの報告書の存在に対して、大臣は「国総研の公式な見解を示したものではない」との答弁で、なんら関与の責任について触れることのないままである。無責任極まりない大臣としか言いようがない。国交省所管の国総研の研究対象が、法令・規則そのものでありその前提が「限界がある」との認識の下であるのに、「関係ない」かのような大臣の姿勢は、この問題への早期の幕引きを諮っていると言われても仕方ないものではないか。

 新社会システム研究会報告書を切り口に、行政や立法府の不作為と、その底流にあるかもしれない政・官・業の癒着の構図を

 再度、徹底追及していく。

新社会システム研究会報告書