原子力発電所の耐震設計について(その2)

2011年9月22日 (木) ─

 先に原発の耐震設計の問題点として、基準及び耐震設計に対して国の責任が明確でないこと、原発の地震動による被害発生リスクについて、事業者自らが行う耐震設計によるリスク低減を限定的なものとして、それ以外は「残余のリスク」として責任の所在をあいまいにしていること、そもそも「残余のリスク」が十分起こりうることを予見できる過去の経緯があるにもかかわらず、基準に対する見直しを放置してきたこと、などの問題を指摘した。

 続いて、最も根本となる、現在の地震動の策定方法の問題について触れる。

 先の号の章立てと併せて、以下に記す。

1.無責任な耐震設計の考え方
1)無責任な体制
2)福島第一原発事故を想定していた指針

2.甘すぎる地震動の策定方法
 「指針」では、耐震設計に用いる地震動の策定に関して、想定する地震について「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」と「震源を特定せず策定する地震動」に区分する考え方を基本的に採用している。

 「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」は、下記の3つの地震を検討用地震とし、複数の検討用地震に対して地震動評価を行い、距離減衰を行うことなどにより、敷地における地震動を策定している。

(a)内陸地殻内地震:敷地周辺の活断層の位置や長さより、震源と地震規模を設定
(b)プレート間地震:敷地周辺で過去に発生した最大規模か、想定した断層面から設定
(c)海洋プレート内地震:海洋プレート内におけるメカニズムや規模及び発生位置に関する地域的な特徴を踏まえて設定

 この方法の問題点は、震源を特定しているため、実際の耐震設計に用いる地震動は、距離減衰などにより、発電所において小さく見込まれることにある。

 このため、実際に発生する地震の震源の位置が想定と異なることにより、重大な被害が生じるリスクを持っている。

 一方「震源を特定せず策定する地震動」は、震源と活断層を関連づけることが困難な過去の内陸地殻内の地震について得られた震源近傍における観測記録を基に地震動を策定している。

 この方法は、直下型を想定しているが、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」のように、シミュレーションを行っているのではなく、過去の震源近傍の観測記録から地震動を策定している。

 しかし、この際の観測記録には、わずかの地震しか採用していないのが実態で、日本国内の地震は2地点のみである。しかも震源地から10km以上離れた観測地点がほとんどである。このため、想定外の規模の地震や、より大きい地震動の発生のリスクを持っている。

 そもそも「震源を特定して地震を区分し、地震動を策定する」考え方は、地震学の世界では定説となっている「一般に、ある程度以上の規模の大きな地殻内の浅い地震が発生した際には、地表地震断層が出現する。同じ震源断層でこのような地震が繰り返すことによって、地表付近に地表地震断層の変異・変形が累積し、活断層として認識される。したがって、ある程度以上の規模の大きな地震であれば、活断層を調査することにより、将来発生する地震の位置や規模を想定することができる。」という仮定に基づくものある。

 しかし、本当にこの仮定は正しいのだろか。

 20世紀以降、日本で起きたM6.8以上の規模の内陸地震は25回。そのうち、主要な活断層帯で発生した地震は6回。さらにそのうち、地表に断層が出現したものはわずかに4回に過ぎない。

 一方、まったく活断層がない地震は10回。これに加えて、新潟県中越沖地震など、事前の十分な地質調査が困難な、沿岸海域で発生したものは6回にも上る。つまり、実際の地震の発生状況や、沿岸部に建設することがほとんどである原発の立地条件を考えると、前述の仮定に基づく指針では、想定外の地震の発生するリスクが非常に高いと言えるのである。

 繰り返しになるが、このような想定外の地震が発生するリスクを最小限にするためには、最大かつ最も危険な状況を予め想定することが必要であるはずだ。

 具体的には、下記の改善が必要だと思っている。

(1) 震源を特定する考え方を止めて、震源は直下型を前提とすること。

(2)周辺の活断層などの調査、過去の地震に関する調査、地震発生メカニズムなどから、その地域で発生しうる最大の地震規模を設定すること。

(3)具体的な地震動については、上記(1)(2)を前提とした上で、シミュレーションや過去の地震動の観測記録を参考としつつ、耐震設計上最悪の条件になるものに設定すること。

 このように、原発の耐震設計における地震動の策定などという根本の問題に触れずに、安全性を謳おうとしても、無理があるということを肝に銘じるべきである。

原子力発電所の耐震設計について(その2)