第856号 ノーベル賞と日本の大学研究

2018年10月13日 (土) ─

 本庶佑京都大学特別教授がノーベル医学生理学賞を受賞されました。本庶先生の素晴らしい業績に敬意を表するとともに受賞に心からお祝いを申し上げます。今回は、ノーベル賞受賞に関連して日本の大学研究の現状について考えます。

◆危機に瀕する基礎研究
 21世紀に入ってから日本人の自然科学系ノーベル賞受賞者数はアメリカに次ぐ世界2位となっており、一見日本の基礎研究は順調のように見えます。しかし、ノーベル賞はその多くが長年の検討を経て既に評価の定まった研究に対して授与されるものであり、必ずしも現在の日本の研究力を反映しているものではありません。

 例えば、イギリスの教育情報誌による「世界大学ランキング2019」を見ると、国内最高位の東京大学は43位で、2015年の23位から急降下しています。他には京都大学が65位に入っていますが、ベスト200位に入ったのはこの2校だけです。

 逆に、アジアの大学は中国の清華大学が22位、シンガポール国立大学が23位など近年急上昇しており、日本の大学の凋落が顕著です。

 その大きな原因の一つが、大学に対する予算の削減です。例えば国立大学法人に対する運営費交付金は平成16年度から29年度の間で約12%(1445億円)削減されています。大学は資金の不足等により、研究職の常勤ポストを減らさざるを得ず、若手の研究職志望の大学院生がポストに就けなかったり、就けても非常勤の不安定な身分の下で研究を余儀なくされる傾向があります。

 また、科学技術研究費も、短期的な成果が期待できる研究に対して交付される傾向があり、ノーベル賞の対象となるような長期の粘り強い研究を要する基礎研究がおざなりにされている現状があります。

 日本の学術論文数はこの10年で減少しており、将来的には日本が今のように多くのノーベル賞学者を輩出できない可能性が高まっています。

◆人への投資の重要性
 大学の基礎研究は技術革新と社会の発展に不可欠で、長い時間と多くの人材の育成を伴うものです。

 それは将来の研究成果への投資であるとともに、何より「人への投資」です。かつて民主党政権は「人への投資」の充実を掲げましたが、今一度大学予算についても、人への投資と捉えて思い切った重点配分を行うべきだと考えます。

 予算面では十分な手当てが必要ですが、一方では大学側も従前の運営・教育の内容の見直しや、施設利用の効率化などの変革が求められていると思います。

 例えば、従来指摘されてきた大学人事や教授人事の閉鎖性や年功序列を見直し、優秀な若手や外部の専門家などを重要なポストに就けることを推進したり、施設や授業の共用を図るため隣接した大学との統合を含めた連携の模索も必要だと思います。

 行政、大学の双方の意識の変革により、日本の大学の研究が将来にわたっても世界をリードしていくことを期待します。

 私も政治、予算、制度面から全力でバックアップしていきたいと思います。(了)

 

森ちゃん日記「医療・福祉を守るために」
 東京商工リサーチによると、今年1月から8月までの医療・福祉分野での倒産件数が196件となり、年間件数が過去最多となる見込みになることがわかりました。介護保険法が施行された2000年以降最多だった昨年をも上回る数字に、高齢化社会を担う働く現場での改革が叫ばれます。昨年は、全国の3割の病院が赤字経営となり、年々抑制される診療報酬の水準が足かせとなり、従事者の賃金へと直接結びつく点からも深刻な問題として取り組まなければなりません。

 特に、介護分野の小規模の施設などでは、人手不足が深刻化しており、介護福祉の資格を待ちながら同じ時給ならとスーパーのバイトを選ぶ若者もいると聞きました。仕事のハードさから若者が敬遠し始めている現状は、仕事のやりがいから理解してもらう必要を感じます。

 そんな中、奈良県では、今年に入り全国に先駆けて地域別診療報酬の決定に向けての議論が始まりました。これは地域主権の観点からも地域が独自に診療報酬を決定し、医療費の抑制を図るのが狙いとされます。しかし、医療従事者の県外への流出、それに伴う良質な医療の維持をどう対策していくのか、働き方改革と地域医療のあり方その双方から高齢化社会の根幹を支える慎重な議論が求められます。

第856号 ノーベル賞と日本の大学研究