第819号 総理は「真実」を語れ

2018年1月27日 (土) ─

 22日、通常国会が開会し、安倍総理の施政方針演説が行われました。

◆「真実」を語らない総理演説
 通常国会冒頭に行われた安倍総理の演説を聞き、一点気になったことがあります。 今回の演説冒頭で、総理は会津藩という「賊軍」出身ながら、後に東京帝国大学総長に就任して教育の近代化に大きな役割を果たした山川健次郎氏を挙げて、明治政府による人材育成政策の成果を自らが進める政策に重ね合わせようとしました。

 しかし、会津藩の敗北後に窮乏していた山川健次郎氏を書生として預かって育て、活躍する機会を与えたのは、後に明治政府の姿勢に反対して萩の乱に加わり処刑される、奥平謙輔氏という長州藩士だったのです。

 総理の演説では、奥平氏の存在や山川氏自身の苦悩・努力には触れられず、単に明治政府の「素晴らしさ」だけが強調されています。このように、事実を政府に都合よく解釈して国民に提示するやり方には、疑問を抱かざるを得ません。

 同様のことは総理が今国会の目玉と位置付けた「働き方改革」にも言えます。 総理は労働法制改革として残業規制や同一労働同一賃金の実現を掲げ、戦後70年ぶりの大規模な労働法制改革だと高らかに宣言しています。

 しかし、改正案では月100時間までは残業が認められるとされ、これは週休2日としても1日5時間程度は残業が法的に認められるということになります。

 また、残業規制・同一労働同一賃金の実施時期についても、準備に時間がかかるとの理由から中小企業での実施が延期される方針と報じられており、本当に実現するのか、その道筋も見えてきません。

 そうした「不都合な真実」から目を逸らし、聞こえの良い言葉だけで政策を語るのは、国民に対しての誠実さを欠くと考えます。

 「森友」「加計」学園問題や、スーパーコンピュータの助成金詐欺問題など、疑惑への説明に対する総理の対応・姿勢についても、同じ根の問題を感じます。
 
◆真実に目を向けさせるのは野党の役目
 世論を気にする政権が「不都合な真実」に目をつぶろうとすることは往々にして起こります。その際、「真実」に目を向けさせるのは、他でもない「野党」の役割です。総理の演説に対して行われた各野党の代表質問では、単に自衛隊の存在を憲法に書き加えるとする総理の改憲案への疑問や、働き方改革の不十分さ、生活保護の減額や高齢者の貧困などの社会保障問題、いつまでたっても個人消費の拡大につながらない「アベノミクス」への批判等が展開されました。

 代表質問を聞く限り、各野党の姿勢は、大きな点で一致しています。だからこそ、個々に小さな塊でバラバラで戦っていくのではなく、まずは労働法制などの政策を一致させ、政府に先駆けて対案を共同提出するなどして機先を制するべきと考えます。政権を担いうる野党の塊を作る第一歩として、今国会は非常に重要な意義を有しています。

 野党が機能し、国会のチェック機能が働き、「真実」に光があたる緊張感ある国会論戦を期待します。それこそが国民が望む国会であると私は考えます。(了)

 

森ちゃん日記「価値観の変革へ」
 新年会の挨拶の場面で、今国会で大きく取り上げられている「働き改革」に対して「ディーセントワーク」、つまり「人間らしいやりがいのある仕事」という言葉を耳にしました。

 この単語が使われ始めた2000年頃は、グローバル競争が加速化した時代。社会に多くの利益と発展をもたらした一方で、激動の経済競争を背景に働く人の権利が軽視され、現在では若年層を中心に正規・非正規という2つの働き方が常態化し、所得格差が広がりました。社会が生んだこの不合理な条件下が続く中で、いま仕事に対する価値観を見直さなければいけないと強く感じています。

 私の場合、会社の利益を追求する業界よりも最大限社会に貢献できる場とは何か、自ら問い続け、その時に馬淵澄夫と出会ったのがこの仕事を選択した全てです。そこには、週休や、収入の高低よりも政治と直接関わり、社会の仕組みと日常の小さな課題の問題点を解決し、現状を変えていく力となることが自分にとって必要とされている場だと強く感じたからです。

 若者の4割が非正規雇用という働き方の中で、貧困から抜け出せないと感じる若年層が、社会全体の利益よりも自分だけ良ければと考えてしまう消極的な社会が蔓延しているのではないかと感じます。このことは、直接政治の無関心にも結びつき、結果的に個人の利益追求が最優先となります。昨今の、リニア談合や自動車業界における不正計測、不適切会計などは利益のみを追求した先にある功罪ではないでしょうか。労働者が1時間で創出する成果の値をみても、先進国の中でも日本がOECD加盟国平均を下回っており、長時間働くことが利益最優先を目指す最適の働き方だとしてきた中で生じた歪みを変革し、どうすれば効率的に、個人が生きがいを持って生産性を上げることができるかという価値観へのシフトが急がれます。

 秘書という仕事は、直接社会と結びつき、社会を変えていくことができる仕事の一つだと自負しています。若い世代が声を上げて自らの道を切り拓くためにどうしていくべきか。私もその中心に立って考えなければいけないと感じました。

第819号 総理は「真実」を語れ