第1130号 適切な賃金確保のために
2023年度の実質賃金は、前年度比でマイナス2.2%となりました。これで2年連続のマイナスで、物価高に対応できるほど賃金が上がらない状況が続いています。その上、電気代値上げ、食品値上げなどが続々予定されており、実質賃金低下はまだまだ続きそうです。
◆立場が弱い受注者
賃金が上がらない理由は複合的ですが、特に中小企業において賃金を十分確保できる収益状況にないこと、そもそも日本経済全体で労働者を安くこき使うシステムが出来上がっていることが大きな原因と考えています。
そこで、建設労働者の処遇改善を目的とする建設業法等の改正が議題となった21日の国土交通委員会質疑で私は、建設業界における適切な収益の確保と、安い賃金での労働が問題となっている外国人労働者問題を取り上げました。
今回取り上げたのは、特に地方で重要な公共工事です。質疑に先立ち、全国の中小事業者に聞き取りを行いましたが、現状、発注者である自治体側が、人材不足などの理由で、適切な見積もりを行えなかったり、発注価格を切り下げる事例が多発しているという声を事業者から頂きました。
こうした発注の結果として、受注者である事業者は安い価格で工事を行わざるを得ず、泣き寝入りを強いられて十分な賃金が確保できないという事情があるのです。質疑では、工事発注者である自治体の体制整備が重要であることを指摘するとともに、現在、国交省が提示している標準契約約款が発注者に有利な内容となっているため、発注者と受注者の力関係に配慮した見直しが必要と主張し、国交大臣からも問題に取り組む旨の答弁を得ました。
◆外国人労働者依存も悪影響
賃金が上がらないもう一つの理由として捉えているのは、とにかく安く労働者を使えば良いという風潮です。日本人の非正規労働者が安くこき使われていることは大きな問題ですが、低賃金で働く外国人労働者への依存も大きな問題です。
建設産業を例に挙げると、2023年段階で、外国人労働者は約14.5万人に上っており、そのうち、技能実習生が約8.9万人と、全体の6割を占めています。つまり、事実上、労働力を技能実習生に頼っている状況なのです。
技能実習生は、建前上は日本人と同等の待遇とされていますが、現実は低賃金労働がまん延しており、厳しい労働環境と低賃金労働を理由に失踪が相次いでいることが社会問題となってきました。
一部には、技能を学びに来ているのだから安い賃金で働くのは仕方ない、むしろ安く使えるのは好都合だという「本音」を語る方もいましたが、これは外国人だけの問題ではありません。
重層的な下請け構造の末端を担う労働者として、技能実習生が低賃金での労働を余儀なくされることによって、業界全体での低賃金労働が当たり前になり、それが日本人労働者の賃金がなかなか上がらない原因にもなってきたのです。
技能実習生の低賃金労働は国際的な問題になり、今国会では技能実習制度が廃止され、新たに「育成就労制度」に移行する法案が成立の見込みです。
制度の詳細は未定ですが、これにより外国人の在留資格取得のハードルが高くなるとともに、より適切な賃金の確保も図られることが見込まれます。外国人に安い労働力を依存する状況にも変化が予想されるのです。
これを機会に、労働者を安くこき使う風潮を、根本的に見直さなければなりません。日本人も含めて、末端の労働者が適切な賃金を得るためのターニングポイントが、今だと思います。
スタッフ日記「一期一会の風景」
自宅から最寄り駅へはいつも歩いて向かっていますが、途中の道沿いに大学寮があります。
かなり古いもののそこそこ大きな鉄筋の建物で、以前は大学生らしき人々が頻繁に出入りしていましたが、数か月前から人影をさっぱり見なくなっていました。そして、少し前に工事現場のプレートがかけられ、どうやら解体が始まる様子でした。
道沿いの、寮の庭のようなスペースには、大きな桜の老木があり、今年の春も見事な桜の花を咲かせていました。
と、いっても去年まではあまり意識していなかったのですが、今年、建物に工事現場の囲いが設置されたり、他にも何本かあった小さい木々が切り払われた結果、桜の木だけがより目立つ格好となっていたので、意識して見るようになったのです。
4月のとある日、見事な満開ぶりだったので、ふと写真に収めようかとも思いましたが、少し急いでいたこともあり、今度でいいかと思い、撮りませんでした。
結局写真は撮らないまま数日が過ぎた後、ふと見ると桜の木はきれいさっぱり無くなっており、まだまだ樹木としての生命力を感じさせる大きな切り株だけが残されていました。やはり、建物を解体するのに、桜の木だけを敷地に残すのは難しかったということなのでしょう。
桜の巨木の最後の雄姿を写真におさめておけなかったのは残念とも思いましたが、逆に記憶の中に焼き付いたので、これで良かったのかもしれません。
どんな出会いや風景が一期一会になるかは分からないもの。一瞬の縁を大事にしたいものです。(アラタ)