第1068号 日銀新総裁、暮らしはどうなる?

2023年2月18日 (土) ─

 14日、政府は日本銀行の黒田総裁の後任に経済学者の植田和男氏を充てる人事案を国会に提示しました。約10年ぶりの日銀総裁交代で、私たちの暮らしはどう変わるのでしょうか?

◆日銀総裁って何する人?
 日銀の目的は大きく2つ、「物価の安定」と「金融システムの安定」です。急上昇が続いている物価はどうなるのか、金利や住宅ローンはどうなるのかは、皆さんの大きな関心事でしょう。

 日銀は、年に8回、「金融政策決定会合」という会議を開き、流通するお金の量や金利水準をどうコントロールするのかなどを議論していますが、その議長を務めるのが総裁です。政策は9名の委員による多数決で決められますが、議長である総裁の提案が否決されたことは一度もありません。

 よって、金融政策に日銀総裁が与える影響は絶大なものがあります。

◆植田氏の考えは?
 では、植田氏はこれまで日本経済についてどのように考えてきたのでしょうか?

 植田氏は、もともとは東京大学教授、学者でありながら、1998年4月に日本銀行審議委員に就任しました。

 植田氏は論文の中で、日本銀行の政策は一部では金利などの資産価格に影響を与えたと指摘しつつ、一方で、日本経済はデフレから脱却できなかったことから、これらの政策は力不足であったこと、そして、この背景を考察しつつ、「日本経済は何らかの外部要因によってしか停滞した「均衡」から抜け出せないという状態にあるように見える。」とまとめ、金融政策の限界を指摘しています。

 日本銀行が採用するマイナス金利については、さらなる利下げもあるかもしれないけれども、今後の日本銀行に残されたカードは少なく、日本銀行にとって苦境が続くとし、金融緩和についても、追加の緩和手段が底をつきつつあるとしてきました。

 また、現状についても、円安に対し、金利引き上げは悪手とする一方で、金融政策が残された手段は限られるとする主張です。

◆「何もしない」は許されない
 総じて言うと、金融政策のみによって経済を成長させる手法に限界を指摘し、大規模な金融緩和の出口を徐々に探ろうとしている慎重・穏健派で、学者としてオーソドックスな考えと言えます。

 よって、総裁として奇をてらった冒険的政策に打って出ることは考えにくく、黒田総裁の下で大規模な金融緩和を続けてきた日本が、緩やかに元の金融政策に着地していくように、政府の方針と歩調を合わせる政策を取っていくように思えます。為替や株価は、しばらくは膠着状態が続くのではないでしょうか。

 しかし、学者的見解で「限界だから何もしない」と冷静に済まされてしまっては困ります。国会が、また、国民が、しっかりと監視をし、「限界だから何もしない」とならないようにしていくことが必要です。

 例えば今、日銀に求められる政策は、金利の操作ではなく、年限の長い30年債や40年債を、インフレ目標が安定的に達成されるまでの間、大胆に購入を続けることだと考えています。

 限界を意識しつつも、やれるだけのことをやることが大事です。国民経済が苦境にあえぐ現状で「何もしない」では、許されないのです。

 

スタッフ日記「行雲流水」

 赤塚不二夫の漫画にはたくさんの魅力的な動物キャラが出てきますが、私がとりわけ印象深く思っているのは「キャイン犬」です。

 赤塚不二夫の公認サイトのキャラクター紹介の中にその名はなく、インターネットで「キャイン 犬 赤塚不二夫」と検索しても出てくるのはウナギイヌなのですが、私にとっては何よりもキャイン犬、なのです。

 「キャイン犬」は、負け犬です。年がら年中涙目でキャインキャイン啼いています。普段からそんな情けない姿を晒しているので、強い犬から睨まれることはありません。

 ただし、犬の世界にも上には上がいて、強い強いと威張っていても、闘犬みたいな喧嘩のプロが出てきたら、尻尾を巻いて逃げるしかなく、普段強さを誇っているものが文字通り「尻尾を巻いて」逃げるその姿は格好悪いことこの上ありません。

 そう考えると、キャイン犬のような負け犬キャラは、意外なるにも処世の知恵の化身みたいなものに思えてきます。

 キャイン犬の姿は、幼少の私には弱さの象徴のように見えて、少々疎ましく思っていましたが、いま改めて赤塚不二夫の漫画を読み返してみると、全く違う角度から眺めることができ、人の加齢の妙とは面白いものだなあとしみじみ感じます。

 今回からご縁あってスタッフ日記を書かせて頂くことになりました。なにとぞよろしくお願いいたします。

 余寒厳しき折柄ご自愛専一元気におすごしください。(ヒロタンク)

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