第1062号 子育てはカモフラージュ?

2023年1月7日 (土) ─

年明け4日、岸田総理は年頭の記者会見で、「異次元の少子化対策」を打ち出しました。

◆なぜこのタイミング?
 総理の本気度を疑うのはこの発表のタイミングです。

 最初から少子化・子育て対策を政策の目玉とするつもりであったなら、予算案を発表した昨年末に、防衛費増額と一緒に明らかにしていてもおかしくはなかったはずです。

 それだけに、このタイミングで「異次元の少子化対策」なる怪しげな言葉を用いた総理の打ち出しには急遽、という感が漂います。本来、優先事項は防衛費倍増とそれを口実にした増税にあるものの、批判がやまないため、カモフラージュを狙っているのではないかと勘繰りたくもなります。
 
◆今のところ増税ありき?
 本気度が疑われるとはいえ、少子化対策が最優先課題なのは言うまでもありません。大事なのは本当に実行できるかです。

 そもそも日本の少子化対策はこの30年以上、失敗を続けてきました。出生数は政府の想定を遥かに上回るペースで減少を続け、2022年は80万人を下回ったと見られ、過去最少になってしまいました。

 総理は具体策として児童手当の拡充などに言及しています。それなのに素早く決まった防衛費倍増と違って、子ども予算を倍増する議論は遅々として進みません。

 それどころか松野官房長官は5日の会見で、児童手当は恒久財源で賄うことを検討する、と述べました。つまり、子どもを口実に増税の方向で議論が進もうとしているのです。

 こうなると最終目的は増税にあると疑われても仕方がありません。少なくとも、子育て政策もセットで打ち出して増税を示すほうが、防衛費増額単独での増税よりも国民の受け止めがソフトになることは否めません。

◆異次元を謳うなら決断も大胆に
 私は、子育て・教育に対してこそ特定の国債を大胆に発行し、財源論に捉われずに支援を行うべきだと考えています。

 わが国では防衛費は今後GDP比2%、年間11兆円程度となる方向ですが、子ども関連予算は近年1%台後半で10兆にも満たず、フランスやイギリス、ドイツが3%台なのに対し、大幅に見劣りします。これを3%台へと引き上げるため、最低でも年間5兆円は教育国債を発行しても良いと考えています。

 また、特に高等教育に対して親の負担率が非常に高いということも特徴です。そのうえ増税、上がらない賃金とマイナス要因が次々と重なり、子育て世帯の家計は傷みに傷んでいます。

 こうした状況で子どもの教育費用への不安から少子化が進展するのは当然のことで、これを変えなければ少子化対策になりません。

 日本は従来、インフラ整備など有形資産に対してのみ国債を発行し、教育など無形のものには国債を出してきませんでした。

 自民党には、教育費を増税で賄おうとする意見もあるようですが、それではますます子育て世代の負担が増し、少子化が進んでしまいます。子育て政策はつじつま合わせの財源論で語るべき分野ではありません。例えばフランスのサルコジ元大統領は教育などを対象とした「サルコジ国債」を発行しています。

 教育国債の議論には、子孫へツケを先送りするのか、という反論がついて回りますが、的外れ以外の何物でもありません。

 将来世代への投資ととらえ、教育によって人を育て、将来より多くの人の所得水準が上がれば、国や社会に入るリターン(=税収など)は自然と多くなります。

 そうした視点で政策を行ってきた国とそうでない国の格差は現在大きく開き始めています。

 口先だけではなく、本気でやる気を見せるならば、つじつま合わせの増税議論ではなく、今までやったことのない教育国債発行のような決断が必要なのです。

 

スタッフ日記「特異日と特異年」
 なぜか高確率で特定の日にちに大雪が降ったり、からっと晴れたりする日のことを特異日といいます。1964年の東京オリンピック開会式は、晴れる確率が非常に高い10月10日が選ばれたというのは有名な話です。この冬の時期だと、日にちは毎年若干ずれますが、1月半ばの大学入試の共通試験の日には毎年のように雪が降っているイメージもあるのではないでしょうか。

 自然現象だけではなく、社会や政治にも特異日は存在し、例えばドイツでは古来、11月9日に限って革命や暴動など政治的大事件が発生し、運命の日と呼ばれているそうです。こちらは単に確率の問題ではなく、その特異日を特別視して行動しようとする人間の意識も絡んでいるようにも思えます。

 特異日ならぬ「特異年」もあります。よくウサギ年は株価などが「跳ねる年」などと言われますが、もっとも身近なのは厄年でしょうか。

 初詣にいくと今年は昭和〇〇年生まれが厄年などと看板に書かれていたりして、はっとする人も多いと思います。この厄年、決して昔の誰かが適当に決めたわけではなく、経験則的に、厄年あたりの人間には心身の変調が現れるという、いわば先人からの教訓だったのでしょう。

 さて、今年も初詣に出かけると、今年の厄年(本厄)は男性が昭和38年、昭和57年、平成11年生まれ、女性は昭和38年、昭和62年、平成3年、平成17年生まれとの説明がありました。私は厄年からは外れていましたが、該当のお年の方はくれぐれも先人の知恵である「特異年」にご注意ください。(アタリ)

第1062号 子育てはカモフラージュ?