第976号 デジタル社会とプライバシー

2021年3月27日 (土) ─

 無料通信アプリ「ライン」利用者の個人情報に対し、中国の会社がアクセスできるようになっていた問題で、国会や省庁の一部でもラインの使用が停止される事態となっています。

◆情報行政の歪みと不備
 8600万人に上る国内利用者を抱えるラインの情報流出は、一企業の情報管理体制ではなく、デジタル社会における公共インフラのあり方に関わる問題です。  DX(デジタルトランスフォーメーション)による社会変革は、生産性の向上のためにも、また、コロナ禍を乗り切っていくためにも必須であり、デジタル庁の設置も計画されています。

 公共インフラとしての情報通信網の整備には、公共交通に安全性が求められるのと同様に、利用者が安心して利用できる仕組みが必要です。情報インフラの場合、プライバシーの保護こそがそれにあたり、そのために個人情報保護法が定められているのです。

 しかしながら、電気通信事業を管理監督し、公平な立場でプライバシー保護を徹底すべき総務省は、幹部が特定の情報通信事業者から接待を受け、癒着の関係を築く一方、ラインの情報流出に関しては、事態が判明してから慌てて使用を停止し、会社に報告を求める有様です。日本の情報行政の歪みと、個人情報保護を所管する政府の個人情報保護委員会を含めた管理監督の不備が、今回の事態で明らかになったと言えます。

◆プライバシーと政治・コロナ
 デジタル社会におけるプライバシーの重要性は、政治と民主主義にも直結する問題です。いったん、ネット空間で個人情報と通話内容が誰かに漏れているという疑心暗鬼が生じると、自由な言論への萎縮効果が生じ、結果として少数派の意見表明の機会を奪うことにもつながりかねません。一方で、差別的なヘイトスピーチや個人を特定しての誹謗中傷、誤った情報で世論を誘導しようとするフェイクニュースの拡散などが横行している現状もあり、これらを規制しつつプライバシーの保護との両立を図らなければ、政治と民主主義のDXは進みません。

 コロナ対応でもプライバシーは大きな問題です。自治体が管理するコロナ感染者リストの外部流出や、感染者に対する地域や職場での差別、濃厚接触者が入ろうとした馴染みの店に、重大な個人情報にあたる検査の陰性証明書の提出を求められるといったことも相次いでいます。また、今後、ワクチンの接種が本格化し、接種者と非接種者の個人情報の扱いを誤れば、偏見や差別を生み出しかねない危険性もはらんでいます。

◆安全なデジタル社会のために
 このように、DXの構築には、それとセットに、情報の自己コントロール権が確立されることが必要だと考えますが、国の姿勢は全く未成熟です。デジタル庁という組織だけ作っても、行政の基本的姿勢が変わらなければ、安全なDXは実現しません。今は、現与党では出来ない総務省を始めとした情報通信に関する行政改革が急務です。

 また、個人情報を安易に扱う集団主義的な発想を、われわれ自身が意識して改めていくことも求められています。行政とわれわれの意識が変わり、プライバシー保護の姿勢が成熟した時、初めて安全なデジタル社会が訪れると思います。

 

スタッフ日記 「日本三大桜」

 例年よりも早く桜開花の便りを聞く今春、新型コロナの影響でなかなかお花見とはいかないご時世ですが、どこかで咲き誇る桜を想像したり、ネット画像で花見を楽しむのもまた乙なものです。そこで、今回は日本三大桜をご紹介したいと思います。

 奈良にも吉野山のような桜の名所は数多くありますが、一本の桜の木としては、一般的には福島県の三春滝桜、岐阜県の根尾谷淡墨桜、山梨県の山高神代桜が日本三大桜と言われ、いずれも国の天然記念物に指定されています。私もそのうち2本は、実際に満開の様子を見に行ったことがあります。

 福島県三春の滝桜はその名の通り、枝が滝の水の流れのように、風に揺られうごめき、天から降り注ぐ桜の花の川を見ているが如きでした。滝桜も含めて東北の桜は、周囲の雄大な自然と一体化し、ひときわスケールが大きく感じます。

 岐阜県根尾谷の淡墨桜は、樹齢1500年以上ともされる古木で、散り際には花びらが淡い墨色になります。実際に見ると、四方八方に力強く枝を広げ、遠き昔から独り立ち続ける孤高の存在に映りました。近くに関ヶ原など歴史の舞台となった地も多く、継体天皇お手植えとされる伝承もあいまって、どこか神秘的な雰囲気が感じられる不思議な桜だった覚えがあります。

 山高の神代桜だけはまだ実際に見たことがありませんが、樹齢はさらに古く1800年とも2000年ともされ、まさに神話の代から生きる巨木の由、コロナが収束した後に訪れることを楽しみに、今年のお花見はは想像の中で楽しんでおきたいと思います。(アタリ)

第976号 デジタル社会とプライバシー