第886号 官邸が狙う解散戦略

2019年6月1日 (土) ─

 衆参ダブル選挙へと走り出している政局ですが、衆院解散のタイミングや大義には、官邸による周到な世論誘導が垣間見えます。

◆解散の大義は見当たらず
 本来、任期を2年以上残したこの時期に衆院を解散する場合には、国民に信を問うための国政上の大きな争点が必要です。

 ところが、今、国会で憲法改正の議論は進んでおらず、外交も北方領土返還は何ら成果が無く、日米貿易交渉は選挙後に先送りされ、北朝鮮問題は米朝交渉の推移次第という状態です。経済に関しては消費税増税延期の是非が争点となり得ますが、4月末の安倍麻生会合では、消費税の予定通りの引き上げが確認されたとの情報があります。その場合は、あくまで予定通りということで、消費税は解散の大義とはなりません。

 このように大義が見当たらない中ですが、安倍総理としては、政権基盤の安定と総裁任期延長も見据えて、統一地方選に勝利し、野党が分裂で弱体化している今こそが解散を行いたいタイミングです。そこで、総理と官邸は、メディアを利用しつつ、解散の大義の設定を野党に転嫁する戦略を取り始めています。

◆官邸の「解散戦略」
 大義の設定を野党に転嫁するとは、すなわち、野党による内閣不信任案の提出を、選挙によって受けて立つという形で解散に踏み切ることです。この方針は、上記の安倍麻生会合でも確認されたとされ、その後菅官房長官が繰り返し、不信任案提出は、解散の大義に「当然なる」と答えていることとも合致します。官邸は野党を挑発することで自らの有利な時期での解散総選挙へとおびき出し、一網打尽を狙っているのです。

 憲法が、不信任案が可決されることによって解散か総辞職となると規定している以上、本来、不信任案が出たから即解散というのはおかしな話です。与党は毎国会のように、淡々と野党が出した不信任案を否決していますし、不信任案提出のみを大義とした解散は、1958年の岸総理と鈴木社会党委員長の合意によるものだけです。

 しかし、理屈としてはおかしくても、総理の解散権が制約されていない以上、野党は挑発に乗って選挙を戦うか、不信任案提出を断念して支持者から失望されるかのジレンマに陥ることになるのです。これこそが官邸の仕掛けている解散戦略です。

◆発火点は党首討論か
 着実に解散への地ならしを行いだした官邸がターゲットとするのが、6月19日の党首討論です。

 ここで、野党第一党である枝野立憲民主党党首から政権を追求する言葉が出て、それに呼応するかのように安倍総理から「ならば不信任案を提出せよ。受けて立つ。」との言葉が出れば、もう、野党各党も後には引けないでしょう。その瞬間にダブル選挙に向けて一斉に走り出すことになります。

 総理は、解散風は「コントロール出来ない」などとうそぶいていますが、解散戦略は今のところ完全に総理のペースで進んでいます。野党は参院選32の選挙区のうち、30で候補を一本化する合意がなされましたが、衆院では過半数を超える候補者数すら確保できていません。いよいよ、野党も正念場を迎えています。    

 

スタッフ日記「居場所と出番」

 「44万人の不登校」この言葉に衝撃を受けました。 

  NHKがこの5月に調査した結果によると、教室に入れない、授業を受けているが苦痛だ、と答えた隠れ不登校とも言える中学生は推計で33万人とされ、不登校の11万人を加えると全国で44万人もの中学生が、いま、学校教育の場に居場所を求めていることがわかりました。

 例えば、オランダの教育改革によって注目が集まっているイエナプラン教育は、同じ教室に異年齢の子どもたちが集まり、座席も決まっていない、フリースクール形式を採用しています。地域によって学校を区分せず、競うことを目的としない自由な発想から、自らカリキュラムを組みことで、自主性を学べる学校として、新たな転校先として選ばれつつありそうです。

 奈良では、不登校親の会ネットワークが主体となって、大和高田市の『ふらっと♭』や保護者カフェを公民館で開催するなど、同じ悩みを持つ親同士の交流の場が地域と連携しながら創られている例も多くあります。

 働き方改革を一つとっても、子ども達、若年層にとって社会というものがどのように捉えられているのか、単に自由な時間や休日が増えることだけが、本当の子どもたちの未来にとって目指すべき社会なのでしょうか。まさに居場所と出番をどのように見つけ、社会が創っていくべきかが問われています。痛ましい事件が続く中で、日々の生活を守り、社会がこの問題にどう向き合っていくのか。一人ひとりの問題として考えていかなければならないと感じます。 (特命係長)

第886号 官邸が狙う解散戦略