GDP速報値と改定値、そして解散
解散の風が強まり、とうとう永田町は一色となってしまった。
消費税率引き上げ先送りを決めての解散とも報じられている。候補者擁立という選対委員長の仕事も最終局面を迎えることになる。
解散について、突然?、と思われる方も多いと思うが、その匂いは相当前から漂っていた。
官邸のスポークスマンである菅官房長官は、毎日2 度、記者会見を行っている。とりわけ最近は消費税増税の判断のタイミングについての質問が繰り返し行われていた。
そして10 月22 日午前の記者会見で、微妙な軌道修正が図られた。
これに触れていたのは、僕の知る限り東京・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏くらいではないか。(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40887?page=7)
菅官房長官は10 月22 日までは、消費税率の引き上げの判断は12 月8 日のGDP 改定値を見るとしてきた。しかし、22 日午前の会見では、11 月17 日のGDP 速報値を見て判断すると微修正を図った。
(http://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/201410/22_a.html 15分24秒あたり)
しかし10 月22 日の時点では、ほとんどこの件については、報道されていない。しかし、11 月17日と12 月8 日の違いは、国会会期中かどうかにより、大きな意味合いの違いが発生する。11 月17 日は臨時国会の会期中であり、12 月8 日は閉会中となる。つまり、11 月17 日に判断するとした場合、首相の「衆院解散権」がちらつくこととなる。
一方、11 月17 日と12 月8 日にそれぞれ公表されるGDP 速報値とGDP 改定値では、何が異なるのかは、あまりよく知られていない。
そこで、まずGDP 速報値とGDP 改定値の違いを整理しておく。
1.GDP 速報値の作成
GDP 速報値は、生産活動を大括りに示す「鉱工業生産指数」、「生産動態統計」(いずれも経済産業省)がベースとなり作成される。
これに、例えば家計消費支出を求める場合には、「家計調査」や「家計消費状況調査」(いずれも総務省)といった家計に関する需要サイドの統計を加味することになる。
一方、企業の設備投資については、後述する企業の需要サイドの統計である「法人企業統計」(財務省)が公表されていないため、生産サイドの統計のみで数値が作成されることになる。
また、企業の在庫投資については、製品・流通・仕掛品・原材料と4 つの段階で分けて推計されている。速報値の段階では、製品在庫については「鉱工業生産指数」、流通在庫については「商業販売統計」が用いられる。仕掛品や原材料の在庫については、「法人企業統計」の情報が必要となるが、速報値の公表段階では公表されていないため、時系列の予測手法により推計して用いているということになる。
2.GDP 改定値の作成
GDP 速報値が公表される11 月17 日とGDP 改定値が公表される12 月8 日の間に、「法人企業統計」(財務省)が12 月1 日に公表される。GDP 改定値では、法人企業統計など速報値と改定値の間に公表された統計を用いて、企業の設備投資や在庫投資を中心に再度推計を行い作成される。
3.GDP 速報値の予測
一方、GDP 統計の作成方法が大まかに公表されていることから、民間シンクタンクでは毎月、GDP の予測値を公表している。現段階では、鉱工業生産指数などの9 月の統計が公表されているため、17 日のGDP 速報値の作成に用いられる統計が出揃っていることとなる。
そこで、7-9月期のGDPの民間予測を見てみると、9月の段階、10月の段階、11月の段階と時を経るにしたがい予測値が低下していることが確認できる。
例えば、9月の段階では、7-9月期のGDPの予測値は、平均的に前年同期比年率4.01%との見通しが公表されていた(日本経済研究センター ESPフォーキャスト9月公表分)。しかし、10月の段階では7-9月期のGDPの予測値の平均は前年同期比年率3.66%と下方修正された(同ESPフォーキャスト10月公表分)。
現段階での7-9月期のGDP予測値は、中央値が前期比年率2.1%と報道されている(11月7日付ロイター「指標予測=7-9月期実質GDPは年率2.1%、増税反動減から回復鈍く」)。
年率2%成長と聞くと、今までの日本経済を考えれば高い成長率のように聞こえるかも知れない。しかし、4-6月期のGDPが前期比年率-7.1%と大きく落ち込んでいたことを踏まえれば、消費税増税に伴う消費の反動減から景気が回復していない姿が明らかとなる。
さらに、9月、10月、11月と新たな統計が公表される度に民間の予測は低下している。今まで政府は消費税率を引き上げに伴い一時的に反動減が発生しても、その後は景気が回復するとしてきた。
しかし、現段階では、明らかにそのシナリオが崩れていると言える。
4.速報値と改定値のズレ、そして解散
一方、GDP速報値とGDP改定値は、大きく変動する可能性があることが広く知られている。
これは、設備投資や在庫投資を中心に、法人企業統計など新たな情報をもとに改定値を作成するためである。したがって、もし本当に景気の状況を安倍政権が判断をしたいのであれば、10月22日より前の答弁の通り12月8日のGDP改定値を待つ必要がある。
可能性は低いと思うが、7-9月期のGDP成長率が高くなり、景気回復シナリオが復活する可能性もある。
しかし、改定値の公表を待つことができない事情が安倍政権にある。それは、国会のスケジュールであり、首相の解散権に直結していると考えるのが妥当だ。
いよいよ、と気持ちを引き締める。