附則18条軽視の末の無責任解散

2014年11月18日 (火) ─

 安倍総理が消費税率の引き上げを延期し、衆議院を解散することが確実となった。

 消費税率の引き上げ延期の根拠は、民主党政権の時に定めた消費税率引き上げ法案の附則第18条と呼ばれる景気条項だ。

 2012年の通常国会で、消費税増税の根拠となる「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律」を成立させた。

 その際、デフレに苦しむ日本経済を危惧し、法案に景気条項を盛り込むことに当時与党議員の立場で先頭に立って動いた。今年4月の消費税率引き上げが決定された際にも、日本経済の現状を考え、バラマキ的な低所得者対策の必要性を主張してきた(現代ビジネス 2013年12月28日 「消費税率引き上げと低所得者対策 ~国民全員に4万円ばらまけ!~」)。

 しかし、安倍政権は、「消費税増税により一時的な消費の落ち込みがあってもすぐに回復する」とし、十分な対策をとらずに、5%から8%に消費税率を引き上げた。

 その結果、予想通り、日本経済の回復は政府のシナリオ通りとはならず、17日に発表されたGDP速報値は実質GDP成長率が前期比年率-1.6%と想定外のマイナス成長となった。

 政府のシナリオは脆くも崩れ去り、消費税増税が景気に悪影響を与えたことが白日に晒される中で、附則第18条を根拠に消費税率の再引き上げは延期されることになる。

 もう少し詳しく附則第18条を見てみる。

 
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社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律
附 則
(消費税率の引上げに当たっての措置)
第18条 消費税率の引上げに当たっては、経済状況を好転させることを条件として実施するため、物価が持続的に下落する状況からの脱却及び経済の活性化に向けて、平成23年度から平成32年度までの平均において名目の経済成長率で3パーセント程度かつ実質の経済成長率で2パーセント程度を目指した望ましい経済成長の在り方に早期に近づけるための総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる。

2 税制の抜本的な改革の実施等により、財政による機動的対応が可能となる中で、我が国経済の需要と供給の状況、消費税率の引上げによる経済への影響等を踏まえ、成長戦略並びに事前防災及び減災等に資する分野に資金を重点的に配分することなど、我が国経済の成長等に向けた施策を検討する。

3 この法律の公布後、消費税率の引上げに当たっての経済状況の判断を行うとともに、経済財政状況の激変にも柔軟に対応する観点から、第2条及び第3条に規定する消費税率の引上げに係る改正規定のそれぞれの施行前に、経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、前2項の措置を踏まえつつ、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる。

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 附則第18条第1項の中に、「平成23年度から平成32年度までの平均において名目の経済成長率で3パーセント程度かつ実質の経済成長率で2パーセント程度を目指した望ましい経済成長の在り方に早期に近づけるための総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる。」と定められている。

 もうすでに、平成23年度から25年度までの経済成長率が公表されているが、実質GDPの平均成長率は1.1%、名目GDP成長率の平均成長率は0.1%となっている。

 附則第18条に示されている10年間平均で実質2%、名目3%のGDP成長率を達成しようとする場合、機械的に試算をすると、26年度以降、実質GDPは毎年2.4%、名目GDPは毎年4.3%の成長が必要となる。

 また、4-6月期、7-9月期が実質GDP、名目GDPともにマイナス成長であったことから26年度の経済成長率をそれぞれ0%として仮においてみると、附則第18条で明記されている実質2%成長、名目3%成長を達成するためには、27年度から32年度の間に実質GDP成長率は毎年2.8%のペースで、名目GDP成長率については毎年5%のペースでの成長が必要となる。

 これは、とんでもない数値だ。

 つまり、附則第18条が示すような「望ましい経済成長率の在り方に近づけるための総合的な施策の実施」を加速させなければいけなかったにもかかわらず、政府は、消費税増税が日本経済に与える影響について過度に楽観的になり、消費税増税というブレーキを踏み続けようとした。

 消費税の引き上げ先送りは、この状況で当然の判断だ。しかし、附則18条を軽視してこの状況まで無策に終わり、挙句の今回の解散は、現政権の経済政策の誤りを覆い隠すためのものの何物でもない。

 誰が判断を間違えたのか、責任を問わなければならない。

附則18条軽視の末の無責任解散