第510号 悩めるTPP
11月のAPECを控えてTPPが話題の中心となってきました。
TPPの内容は物品貿易に関わる物と、規制に関わる物の2種類があります。
まず、物品貿易については、今すぐ、または10年以内に関税を撤廃することを原則としています。また、例外なしで全ての関税を撤廃すると宣言しなければ交渉に参加できません。
それから、包括協定の締結に向けて24の作業部会で議論が進められており、関税だけでなく政府調達や金融・電気通信・労働などの規制・制度の改革も求められることになります。
◆TPPの成り立ち
TPPの基盤となるのは06年にシンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの4カ国で結ばれた「P4」という経済連携協定(EPA)です。そこへ昨年4月、米国、豪州、ペルー、ベトナム、そして10月にはマレーシアが加わりTPPの交渉が始まったのですが、元々小国間の経済連携であったものに大国である米国が突然加入した事で本質が大きく変わりました。
自由貿易の協定は86年のGATT(貿易に関する一般協定)ウルグアイラウンドまでさかのぼります。この時は先進国と途上国という大枠で分けて対応を協議しました。その後、途上国が躍進すると、より各国の事情に応じた自由貿易協定が必要となり、01年からのWTO(世界貿易機構。GATTが発展し、できた組織)ドーハラウンドではFTA(自由貿易協定)等の二国間協議が進められました。現在の加盟国・地域は153に上るので、WTOでの交渉は世界中が対象となります。
また、FTAは一部の国・地域間だけで貿易をWTOより自由化でき、EPAはそれに加えて幅広く経済関係の強化する物なので、どちらも各国の事情に応じた柔軟な交渉が可能です。
TPP参加国の中で、日本とEPAやFTA交渉を行っていないのは米国とニュージーランドのみで、日本の貿易相手国上位10カ国中、TPP交渉参加国は米国と豪州のみです。仮に日本がTPPに加盟した場合、加盟国のGDP(国内総生産)の割合は米国67%、日本24%となります。つまり、TPPでやりとりされる物品の多くが米国産・日本産の物ばかりとなるため、これでは実質的に日米間のEPAと変わりません。一方、日本が参加しない場合、アメリカのメリットは薄くなります。
◆「開国させる」事が重要
よく、日本の関税は高い、といわれますが、他国と比べて例外的に関税が高いのは米、小麦、バター、粗糖などです。これらは自給率の維持等の目的のある物や、地域の基幹産業など、限定的です。むしろ日本の農産物全体の関税率は平均で11.7%とEUの19.5%、韓国の62.2%などと比べても低く、実は低関税の国といえます。鉱工業製品等関税率に至っては2.5%と米国、EU、豪州、韓国と比べても最低です。こうした状況を踏まえると、目指す国益は「自国の開国」ではなく、「他国を開国させる」ことではないでしょうか。
私は自由貿易を否定するわけではありません。しかし、日本がとるべき本来の自由貿易戦略は、貿易額が大きく、TPP交渉参加国ではない韓国、中国、EU、台湾などといかに二国間、多国間で経済連携協定を結べるかではないかと考えます。
個々の品目について配慮しながら、戦略的にアジア太平洋地域での経済連携を進めることが重要で、情緒的な「開国論」や「乗り遅れ論」に惑わされるべきではありません。 (了)
スタッフ日記「思い出の奈良」
私には、秋になると思い出す奈良の風景があります。
大阪に住んでいた中学生の頃、奈良好きの友人がおり、毎年秋になると4~5人で奈良を訪れていました。
友達はいつもお決まりのコースを案内してくれます。大阪から近鉄で西大寺・秋篠寺へと。秋篠寺の伎芸天像と菩薩立像のお顔を見ると優しさに包まれるような安らぎを覚えました。そこから平城宮跡へと向かい、ススキの穂が風に揺れ、金木犀の香りに秋を感じながらお弁当を食べるのが楽しみでした。
一息つくと、今度は法華寺です。広い境内はいつ行ってもきちんと清掃され本堂に上がると自然に背筋が伸びました。そして、不退寺。秋の不退寺は萩の花、コスモス、菊の花が色とりどりに咲きほこり優雅な気持ちになりました。
最後に訪れていたのが、興福院(こんぶいん)です。訪れる人の少ない隠れ家のような尼寺で、私達のお気に入りでした。境内に続く細い道は、稲穂がたわわに頭を垂れ、遠くには柿の木が実る秋の風景そのままでした。
中に入ると、秋の日差しを体いっぱい浴びながら時間を忘れるくらいゆっくりとした時間を過ごしました。昨年、ある会合で私の隣の方が、京都の尼僧さんでした。娘が通っていた学校の近くだったので話が盛り上がり、たまたま興福院のお話をすると、尼寺ということで親交をお持ちで、興福院の尼僧さんが今もご健在だと知りました。
せっかく奈良に越してきたのに、興福院だけは訪れることなく時間が過ぎました。
季節はまさに私が中学時代訪れていた秋まっただ中です。次のおやすみの日、晴れたらあの頃を思い出し、ゆっくりと秋の奈良を散策したいと思っています。(エバ)