附則104条への具体的視点

2011年12月28日 (水) ─

 今日も税調で発言したが、現政府が消費増税の根拠としているのが所得税法等の一部を改正する法律附則第104条だ。

 この104条を考える上での具体的視点こそが、今日の発言の根幹である。

 104条を考える上で、着目すべき具体的な事項を示した上で、税制改革の本来のあり方を、進め方を考える。

1.「景気回復過程の状況」を見極めるための具体的な事項
(1)デフレからの脱却の確認
 消費税引き上げ前に1年程度、食料及びエネルギーを除いたベースの消費者物価(いわゆるコアコアCPI)上昇率が2%程度になっていることを確認する。

(2)金融システムの安定の確認
 少なくとも日本、米国、英国、ユーロ圏の金融システムの安定状況を確認する。例えば、政策金利(日本であれば翌日物コールレート)と銀行間の金利、銀行から企業への貸し出し金利の推移を見て、政策金利に比して銀行間の金利の高止まりが発生していないか、また、銀行間の金利に比べて貸出金利が高止まりしていないかを確認する。

(3)GDPギャップがゼロかプラスであることの確認
日本経済がデフレから脱却し、日本を始め主要国の金融システムの安定が確保されている上で、「景気回復過程の状況」を把握する指標として、GDPギャップに着目する。具体的には、税制改革の実施の前に、GDPギャップがゼロに近くなっているか、もしくは、プラス(需要超過)になっているのか、確認する。

 GDPギャップとはGDP統計が発表された後に、内閣府がGDPギャップを試算しホームページで公表しているものである。内閣府のホームページによると、GDPギャップとは、「GDPギャップ=(現実のGDP-潜在GDP)/潜在GDP」で定義されるものである。簡単に言えば、日本経済が働く意欲のある人が働き、また、工場などの設備も順調に稼働するなど、潜在的な力を十分に発揮し、過熱もしていない状況であれば、GDPギャップはゼロ。

 一方、現在の日本経済のように働く意欲があっても働くことができない人がおり、また、工場が十分に稼働していない状況では、GDPギャップはマイナスとなる。

 内閣府の11月の推計によると、現在、日本経済のGDPギャップはマイナス3.5%、金額で考えると大雑把に言って20兆円前後という非常に大きな潜在的な力を持て余している状況だ。

 デフレから脱却し、GDPギャップがゼロに近い水準、もしくはプラスの状況であれば、税制改革により、一時的に景気が落ち込んだとしても、日本経済は、再び、持続的・自律的な回復過程に復元する力を持ち合わせていると考えることができるだろう。

 前にも述べた(2011年12月22日まぶちすみおの「不易塾日記」 増税議論に際しての整理)が、GDP成長率は、復興需要や消費税増税前の駆け込み需要など、特殊要因があると上ぶれることになるなど、日本経済の景気回復過程を写す鏡としては不適切だ。

 これに対し、GDPギャップは、雇用の状況や工場などの設備の稼働率なども含めて、総合的に日本経済の断面図を示していると言える。

2.「国際経済の動向」を見極める上での具体的な事項
 「国際経済の動向」については、米国やユーロ圏、英国、中国、韓国、ASEAN諸国など、日本と貿易や金融上のつながりの強い国の経済動向を、IMFやOECDなどの国際機関の見通しをもとに、把握していく必要がある。

 現状であれば、特に、ユーロ諸国の動向は金融、貿易両面を通じて日本経済に大きな影響を与えるうるため、注意が必要であろう。具体的には、欧州債務危機が一段落していることが必要だ。

 消費税増税前には駆け込み需要が発生し、税率引き上げ後には一時的に耐久消費財や住宅投資を中心に落ち込むことは1997年の消費税増税の経験を見れば明らかである。そのような中で、国際経済が順調に推移していない場合、輸出も伸び悩み、日本経済は内需、外需ともに下押し圧力が働き、景気の低迷に悩まされ続けることになる。

3.税制改革の成功の鍵を握る金融政策
 以上「景気回復過程の状況」や「国際経済の動向」を考える上での具体的なポイントを示した。税制改革を実施するためのハードルが高いように見えるが、日本銀行が日本経済の状況を踏まえて、徹底的な金融緩和を行うことにより、ハードルは非常に低くなる。

 以下、日本銀行が真面目にデフレ脱却に取り組んだ場合の考え得るシナリオを示そう。

 日本経済は1990年代半ば以降、デフレ下にあり、20年近く経済の低迷に苦しんできた。そこに本年3月11日、東日本大震災が日本を襲い、現在は、異常な円高に苦しんでいるところである。一方、政府は震災からの復旧・復興に全力に取り組んでいるところである。つまり、財政は震災により拡張的なスタンスとなっている。ここで金融政策が量的緩和の拡大を通じて徹底的にサポートすることによりデフレから脱却できる可能性が非常に高い。

 具体的には、日本銀行が、2%以上の消費者物価上昇率が1年以上継続することを確認するまで、国債買い切りオペの増額を通じた量的金融緩和を続ければデフレから脱却することになるだろう。

 日本銀行は、2000年8月のゼロ金利解除や2006年3月の量的緩和の解除など、デフレから安定的に回復したことを確認せずに早急に金融引き締めを行った過去を持つ。そこで、上記の2%以上の消費者物価上昇率が1年以上継続することを確認するまで量的緩和政策の拡大・継続を宣言する必要がある。

 仮に日本銀行が以上のような宣言を行えば、為替相場も異常な円高から円安方向に動くことになる。現在、震災の復旧復興需要という特殊要因が日本経済を支えているが、円安方向に推移することにより、震災の復旧・復興需要が剥落した後も、外需や民間の設備投資などを誘発し、GDPギャップがゼロになる方向に日本経済は推移することになるだろう。

 これにより、税制改革を真に実行に移すことができるようになる。

 今日の税調では、GDPギャップを指標としてかつ、遅行性があるが統計数値として信頼が高い失業率を用いてトリガー条項を書き込んではどうかとの提言をした。

 外的環境要因の変化によって、増税どころではなくなることを認識しなければならないと、僕は思っている。

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