第865号 水道事業民営化問題
6日、水道事業の実質的な民営化が可能となる水道法改正案が成立しました。外国人労働者問題の影に隠れてしまった感がありますが、国民の日常生活における基礎インフラに関する、非常に重大な改正だと考えています。
◆水道民営化が失敗する理由
今回の水道法改正は、今まで自治体が所有管理してきた水道設備について、自治体が所有権を有したまま、実際の事業運営権を民間企業に委託することを可能にするものです。民営化のメリットとして、経営の効率化やサービスの向上が期待できることが挙げられています。
しかし、パリやベルリン、アトランタなど欧米の大都市では、水道事業がいったん民営化されたものの、水道料金の引き上げなどに対する利用者の不満により再公営化される動きが見られ、民営化は必ずしも世界の流れとは言えません。その理由は、水道事業の持つ特殊性にあります。
水道事業は、コストを回収するまでの初期投資に多くの費用がかかるため競争が起こりにくく、大手企業による市場独占が生じやすい事業です。さらに、水は全ての人の生活必需品であるため、価格が上がったからといって使用を控えることは容易ではありません。よって、市場原理による価格調整が働かず、いったん大手企業が市場を独占してしまうと、際限なき水道料金の上昇や、効率の悪い分野の切り捨てが発生しやすくなり、利用者は代替サービスへの切り替えも出来ないため、結局、公共サービス事業として行き詰まってしまうのです。
また、独占による既得権の固定で、利権の温床となりかねない危険性も指摘されています。これらの議論が十分に行われないまま法案が成立してしまったことに疑問を感じます。
◆地方の視点でインフラの維持を
公営事業の民営化の際には、地方切り捨てにつながるのではないかという視点も重要です。他の民営化事業を見ると、国鉄の民営化後、北海道や四国など地方の鉄道事業で慢性的な赤字が続き、次々とローカル路線の廃止が発表されています。郵政民営化も、地方郵便局の廃止などが発生しています。最終的に自治体が給水に責任を持つ形の水道法改正とは事情が異なる面もありますが、大きな流れとして、公営事業の民営化は地方の切り捨てと衰退に拍車をかけてしまう可能性が高いことについて、十分な議論と対策が必要だと考えます。
各自治体が運営する水道事業は、多くが赤字を抱えるなど、曲がり角に来ていることは事実ですが、自治体同士の広域連携と水道事業の統合、管理システムの効率化など、民営化の前に行える改革は多く存在します。改正法が成立したことで、今後の民営化を含めた対応については各自治体の判断に任せられますが、社会の必須インフラである水の安定的かつ安価な供給は、今までも、そしてこれからも日本の発展の基礎です。水道について、効率化と低コスト化の思考の下での安易な民営化により、国民の生活が危機に陥らないように慎重な判断が求められると思います。(了)
森ちゃん日記「雇用創出のキーワード」
県内における雇用の推移を企業誘致の観点から見ると、平成30年上期の企業立地件数は22件と全国では7位、福井県を含む近畿7府県でも2位となっています。過去8年で最多の34件だった昨年と比較しても県内における近年の企業誘致の成果といえます。また、9月時点での就業地別の有効求人倍率は過去最高の1.75倍で、近畿では最も高い値となっています。その要因として、奈良先端技術科学大学院などの教育機関をはじめとする優れた研究環境との連携、京阪神と比較して低コストな土地、平成18年より段階的に開通した京奈和道の整備などが挙げられます。
県内の大学進学・短大進学率は男女共に全国平均より高く、就労していない20~40代の女性の8割が就労を希望し、かつ県内での勤務を希望している実態があります。欧州を中心として低成長下でも就業率の上昇に寄与したとされる積極的地域労働政策では、インターン制度の活性化を積極的に行うことで学と職の接続をより重要視し、失業率の改善を図りました。地方の経済活性化には、主力産業や大企業目線ではない、中小地場産業の活用と行政の柔軟性が求められます。豊富な人材が豊かな奈良県で女性と若者、この2つのキーワードがこれからの奈良県を飛躍させる大きな原動力となるはずです。