第836号 懸念残る働き方法案

2018年5月26日 (土) ─

 今国会の焦点の一つである働き方改革法案は、与党と日本維新の会など野党一部が修正案に合意し、今国会中に成立する見通しとなりました。

 しかし、「働き方」法案で新しく創設される「高度プロフェッショナル制度」(高プロ制度)は、労働者保護の点から様々な懸念が払拭されないままです。

◆高プロ制度の「穴」
 「高度プロフェッショナル制度」とは、一定以上の年収の専門的能力を持った労働者を対象に、支払われる賃金を「労働時間」と切り離し、「仕事の成果」と連動させる制度と説明されています。
メリットとして、労働者は成果さえ上げれば出勤時間を遅らせたり、短時間の労働で切り上げることが可能になり、長時間労働が是正されることや、時間に縛られない働き方が可能になることなどが挙げられています。しかし、法案を見ると、それらのメリット実現が制度として担保されているかについて疑問を抱かざるを得ません。

 例えば、労働者の仕事の進め方や時間配分について、使用者側が具体的な指示をしない旨が明文で定められているわけではなく、労働者側の自由がどれだけ保障されるかは不透明です。

 また、そもそも何をもって仕事の「成果」とするかがあいまいなことに加え、使用者が「成果」に応じて賃金を支払う義務が課されるわけではないため、いくら「成果」を挙げてもそれに応じた報酬が支払われるとは限りません。そして、対象者に対して今まで支払われていた休日労働や深夜労働に対する割増賃金支払い義務が無くなり、休憩時間の確保についても適用対象外となるため、「成果」を上げるための長時間労働はそのままに、残業代等が無くなることで、かえって賃金が低下することや、休憩時間も確保出来ず働きづめになる事態も想定されます。

 さらに、残業時間の管理等が企業に課されないため、労働時間の証明が難しく、過労死等が起きた時に、労災認定に支障を来たすことも考えられます。

 柔軟な働き方という制度の「理想」は理解できますが、働く者の「現実」を見る時、結局この制度は、労働者よりも使用者側の負担を減らし、使い勝手の良い労働者を産み出していく制度になる懸念が払拭できません。

◆「働く者」の視点に立て
 高度プロフェッショナル制度に関する懸念について、小泉政権時代を中心に、自由な働き方の推進を目指すとして逐次改正された派遣法が、結果として使用者や派遣会社にとって使い勝手の良い、低賃金で不安定な労働者を多量に生み出す結果となってしまったことが思い起こされます。

 高プロ制度は現時点で対象者は高収入労働者に限定されていますが、今後規制緩和の名のもとに対象となる労働者が拡大されていく可能性もあり、全ての「働く者」の問題と認識することが必要だと思います。

 当初、労働者のメリットばかりが強調され、後になって生じたデメリットを働く者の「自己責任」の一言で片づけられてしまうような制度を作ることは許されません。「働く者」の視点に立つとき、制度の悪用も含めた懸念が払拭されず、まだ議論が不十分な「高度プロフェッショナル制度」を拙速に導入することについては極めて慎重であるべきだと考えます。(了)

 

森ちゃん日記「日大、問題本質を明確に」
 連日報道される日本大学アメフト部の問題に対し、日大OBの一人として真摯に向き合いたいと思います。今回の騒動は、大学スポーツに蔓延する一つの問題に留まらず、教育機関として大学側の姿勢と危機管理における初動対応が問われています。また、スポーツの本質と教育の根幹に対する問いが投げかけられる中で、監督によるチーム運営や指導法に世間が注目していることを鑑みれば、一連の会見が事実の究明よりも、事態の矮小化を図る姿勢が見え隠れする事に残念で悔しい思いです。

 日大の特殊性として、学生数日本一を誇り、法学部でも1学年約1,700人もの学生が在籍し、個別のクラス編成がないため、個人が自ら行動しなければ学生生活おいて教職員や大学との接点が少ないと感じました。今回、会見をした勇気ある学生に真摯に寄り合い、大学による真相究明と世間に対する疑問にどこまで向き合えるかが問われています。来年には130周年迎え、卒業生116万人を輩出する本学が、組織優先ではなく学生一人ひとりに向き合い、若者が未来へ希望を持ち挑戦できる土壌を創造する大学であることを信じます。また、政界や官僚の世界で共通する組織の古い体質の問題に対し、個人が考え正しいと判断し行動することが可能な社会への教訓となることを祈っています。

第836号 懸念残る働き方法案