第824号 政府データ見極めの重要性
政府が今国会の最優先法案と位置づけた労働法制改革法案について、その根拠となる厚生労働省の調査結果に不備が多数含まれていることが発覚し、混乱が広がっています。
◆法案撤回は当然
政府は、報酬を「労働時間」ではなく、「仕事成果」に連動させる法案の成立(裁量労働制の対象職種の拡大)を目指しています。
これに対しては、一方で、報酬を成果に連動させることで、残業代が支払われず、かえって長時間労働が蔓延するのではないかという批判があります。
政府がこの批判に反論する「客観的証拠」として挙げていたのが、「現在の裁量労働制による労働者は、一般の労働者よりも労働時間が20分程度短い」とする、厚労省の調査データでした。今回、厚労省は自らの主張の根拠だった調査データの誤りを認めたことになります。
安倍総理は今まで、この誤った調査結果を引用して、「裁量労働制を拡大することが長時間労働の是正につながる」旨の答弁を繰り返してきました。その根拠が崩れた以上、法案を撤回すべきは当然と言えます。
◆データの真偽の見極めが重要
今回のように政府が自らの進める政策の正当性をアピールするために、不適切なデータを自らに都合の良いように示すことは今までにも見られました。
例えば、私が3年前に予算委員会の質疑で安倍総理に質(ただ)した、官邸発表のGDP成長率データがあります。
消費税8%への増税後、官邸ホームページには高いGDP成長率が掲載され、アベノミクスの成果である旨記載されていました。しかし、実態は、消費税増税の際の事前の駆け込み需要を入れ込み、集計期間を広く取るなどして、消費税増税によるGDP成長率の低迷を覆い隠す操作がなされていたのです。
このように、政府がデータを示す際は、データそのものが誤っている場合にとどまらず、巧妙に数値を操作して確信的に国民を欺いていると言われても仕方がない場合もあります。
政策立案において、霞ヶ関という巨大組織を抱える政権は、膨大な資料やデータを事実上独占する立場にあります。情報を独占する政府が、自らの都合の良い数字やデータを都合良く解釈し示した場合、行政をチェックするのは至難の業です。しかし、そうであればこそ、政府の提示したデータを鵜呑みにせず、冷静に真偽を見極めることが、野党や報道機関に求められてます。
◆野党は連携して代案を
今回、裁量労働制についての議論の前提となるデータが誤っていた以上、法案の撤回は当然ですが、仮に野党がデータの不備のみを国会審議のテーマとし、政府を批判して働き方改革に対する代案を示さないままでは、国民の支持は得られません。
野党がすべきことは、法案に反対することで現状維持を図ることではなく、何をすることが「働く者のための真の働き方改革」になるかについて、現実的な代案を共同で練り上げ、国民に提示して戦うことです。
今、民進党と希望の党の間では、長時間労働是正のために、退社から次の出社までの間に一定の間隔を義務付ける「インターバル規制」の導入などを定めた法案の共同提出の動きが見られます。未だ分裂状態にある野党ですが、この動きをきっかけとし、立憲民主党など他党を巻き込んで、代案を示すことで政府与党との明確な対立軸を作っていかねばなりません。(了)
森ちゃん日記「輝ける活躍の場を」
先日、奈良市内のとあるディーラーに企業内保育所がオープンし、働きながら女性を支援する新たな取り組みの第一歩として注目されていました。こうした事業所と保育所が一体型となった保育所施設は、現在、奈良県内に20ヶ所程度しかなく、平成28年度からスタートした企業主導型保育の全国的な広がりと比較しても、今後、従業員に限らず地域の子どもの受け入れを行う施設が県内にも増えていくことが予想されます。
奈良県は、県外就業率や一世帯の所得が高いことで全国と比べられることが多いですが、2014年に女性の就業率が40.9%と全国最下位となって以降、県が育児休業給付金を助成し、育児休業が取得しやすい環境づくりを推進してきました。企業に対しても、雇用を継続しやすい社内環境を整えられるよう今回のようなワーク・ライフ・バランスに積極的に取り組む形で最下位脱出を目指してきました。
しかし、こうした男女の働き方に関する環境には、都道府県別で地域差があり、その土地柄の性別役割分担意識の違いが影響しているようです。理想の家庭像が「夫は外で働き、妻は家庭を守る」という考え方を肯定する割合が高い都道府県では、男性の長時間労働の割合が高い傾向にあります。奈良県は、全国平均よりもその割合が高く、特に30〜50代の男性は10ポイント以上高い結果となっており、働く意欲があっても家族の同意が得られず、結果として女性が働く環境の縮小化につながっているとも考えられます。
先進国では、女性の労働力率が高いほど、出生率が高くなる関係性が示されており、今までは負の関係性と指摘されてきた労働と生活とのバランスが、実はプラス要因になる可能性へと変革するのではと感じています。職場の環境づくりを整えると同時に、各家庭、私たち個人が多様な働き方に対して柔軟に受け止められる意識を持つことが重要です。女性の活躍の場が広がることが少子化への歯止めをかける第一歩なのかもしれません。今国会で注目され、皆さんにも関心の高い「働き方改革」ですが、正しい知識と経験から労働問題の本質を見ていきたいと思います。