第658号 がん免疫細胞療法の可能性 

2014年9月27日 (土) ─

 今年4月、「がん研究10か年戦略」が閣議決定され、免疫療法について治療開発を強力に推進していく方針が示されました。今回は、免疫療法の中でも注目を集める「免疫細胞療法」の可能性について考えます。

◆免疫療法と免疫細胞療法 
 免疫細胞療法は、がん患者の体内にある免疫細胞を一度体外に取り出し、強い刺激を加えながら培養して免疫細胞の活性を高め、がんを攻撃する戦力を整えて、患者本人の体内に戻すというがん治療法です。 

 免疫細胞を体外で培養する「免疫細胞療法」は、その他の「免疫療法」とは大きく異なります。従来の免疫療法は、病原体やサイトカイン類など免疫刺激物質を体に投与するもので、手軽で費用も安い療法です。しかし、強力な免疫刺激物質を投与すると、がんを攻撃する免疫力は高まりますが、強い免疫刺激は患者にとっては危険です。一方、弱い免疫刺激は安全ですが、十分な効果は期待できません。このジレンマを克服するのが、免疫細胞療法です。

◆免疫細胞療法の仕組み 
 がん細胞そのものは全ての人の体内に日常的に存在します。しかし、全ての人ががんになるわけではありません。それは、体内の免疫細胞が全身をパトロールして、がん細胞を見つけて排除しているためと考えられています。免疫細胞療法は、この免疫細胞を体外に取り出して強い刺激を与え、がんと闘う力を目覚めさせるものです。 
 
 免疫細胞の研究が1970年頃より始まり、細胞傷害性T細胞や樹状細胞によってがんを攻撃する取り組みが行われてきましたが、決定的な成果を上げるには至りませんでした。その後、もっと強力な、がん退治が可能な免疫細胞を探す研究が進み、1975年、がん細胞を倒すNK(ナチュラルキラー)細胞が発見されました。さらに研究が進み、NK細胞が強力にがんを攻撃することが明らかになる中で、1984年、米国国立衛生研究所(NIH)による「リンフォカイン活性化キラー細胞療法」が大規模臨床試験として実施され、免疫細胞療法の基本原則が確立されました。現在では、患者からNK細胞を含むリンパ球を取り出し、活性を高めて体内に戻すという「活性化自己リンパ球移入法」が、免疫細胞療法として行われています。

◆標準治療との組み合わせ 
 免疫細胞療法は、手術、化学療法、放射線療法といった標準治療を否定するものではありません。免疫細胞療法だけで全てのがんを治療するということではなく、標準治療と併せて、標準治療でがん細胞を一気に減らし、免疫細胞療法で残りのがんを叩くといった新たな選択肢を患者に提供することが重要と考えます。 

 現行の標準治療では、遠隔転移群の5年生存率は平均で12.5%、胃がん肺がんでは5%台、肝がんでは1%台とされ、事実上、標準治療では対応できない症例があることは明らかです。公的保険でカバーできる治療法が期待できないケースでは、先端医療(自由診療)に患者は期待をせざるを得ない実態があります。このような状況の中で、免疫細胞療法のような新たな治療法が「第4の標準治療」を目指している過渡期には、自由診療をサポートする制度も含めて検討が必要と考えます。(了)

 

スタッフ日記「20歳の勉強」 
 私は今年慶應大学に入学した1年生ですが、大学の先生は変わっているなあと感じたことがありました。 

 ラテンアメリカ研究を専門とされている女性の教授の講義を履修したときの話です。 

 「学問は研究室やフィールドワークより先に、身の回りの身近なところから」がモットーの教授は、普段から南米の文化を取り入れた生活をされているそうですが、なんとサッカーのブラジルW杯開催期間中は彼らへのエールを込めて南米勢のユニフォームを着て講義を行いました。 

 W杯開催期間に行われた講義は計4回。毎回1カ国ずつ、ブラジル・アルゼンチン・コロンビア・ウルグアイ、と各国のユニフォームに身を包み、日本とは全く文化の異なるラテンアメリカについて、普段の講義より何十倍も笑いながら、「あなたたち学生にももっと南米を知ってほしい!」という気持ちがひしひしと伝わってくるような饒舌さで語ってくださいました。 

 人に教えるくらいなので、自分の専門分野に愛着を持っているのは当たり前ですが、このような意外な形で愛情を表現する教授もいらっしゃるのか!と驚いてしまいました。 

 これはほんの一例ですが、大学での勉強は常に想像もできなかったような新たな発見や楽しさに満ちています。今までは「受験のため」にしかならないと思っていた勉強が、大学においては自分の見識を広め新たな視点を得るための支えとなってくれています。 

 今後は大学の友人とともに個性豊かな教授にしっかり学び、実りある大学生活を送れるようにしたいです。 (ゲロッパ)

第658号 がん免疫細胞療法の可能性