第540号 将来不安と消費の抑制

2012年5月12日 (土) ─

 来週から社会保障・税一体改革特別委員会での消費税増税論議の国会審議が始まります。

 政府はこれまで繰り返し「将来の年金不安があるから消費が低迷している」ので、まず「社会保障の安定充実が必要」と説明し、そのために「消費増税が必要だ」と当たり前の論理のように語ってきましたが、本当にそうなのでしょうか?検証してみましょう。

◆社会不安と予備的貯蓄 
 まず、「将来不安が払拭され、消費が増える」とはどういうことかを考えてみましょう。 

 これにはまず「予備的貯蓄」という概念を使います。将来の不安・不確実性(所得の減少など)に備え、消費を抑制して貯蓄をするということです。 

 内閣府経済社会総合研究所が2009年に取りまとめた「バブル/デフレ期の日本経済と経済政策」の研究の中にレポートがあり、予備的貯蓄について「雇用環境」「収入の増え方」、「資産価値の増え方」の3方向からの分析をしています。その結果、予備的貯蓄の動機として優位に説明できるのは所得リスクや資産価値変動リスクではなく、雇用リスクであるとしています。 

 つまり私達はまず、漠然とした「将来不安」の中で、最も消費に影響を及ぼす要因は「雇用不安」だということを理解しなければなりません。そして雇用の安定は決して増税で生まれるものではありません。

◆所得と消費の関係
 さらに、所得と消費の関係も整理してみましょう。所得は月々の給与など、安定した部分「恒常所得」と、臨時ボーナスなどの変動する部分「変動所得」に分けることが出来ますが、消費はこのうち「恒常所得」により説明できるというのが一般的です。この恒常所得/変動所得の議論は麻生政権時代の定額給付金の議論を思い出して頂ければわかりやすいかと思います。当時も一時的な収入があってもなかなか消費には回らないということが盛んに言われていました。 

 加えて景気の低迷する現状では、一時所得=変動所得はなかなか望めないため、結果的に恒常所得が可処分所得(家計で使えるお金)と同じ意味を持ち、これが消費に回ると言っても良いかと思います。すなわち、消費は可処分所得に左右されるのです。可処分所得=恒常所得であり、恒常所得を月々の給与と言い換えるならば、消費とより密接な関係を持つのは年金などの将来不安ではなく、雇用不安に他なりません。 

 一方、将来の年金不安による予備的貯蓄の増加という実証は、今日までわずかに2例のみです。その中では「30代を中心として親と同居なし、あるいは親から経済的援助を受けていない場合、年金不安のある家計は不安のない家計に比べ、貯蓄が多い」と結論付けていますが、これは限られたサンプル調査でしかありません。 

 こうしてみると、「年金による将来不安により消費が抑制される」ことが「ない」と断言することは仮に困難だとしても、十分に立証されていない、もしくは限られた立証しかない、とはっきり言うことは出来ます。従って、やはり雇用リスクを低減する景気の拡大こそ、将来不安を払拭する最大の方策でしかないのです。決して解決策は増税ではありません。  (了)

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スタッフ日記「朝練は、やった後が重要」
 ゴールデンウィークはいかがでした休養か?休日から仕事や学校に行くモードに頭を切り替えるのはなかなか難しいものです。 

 そこで頭がスッキリとする方法はないものかと調べたところ、ランニングなどの有酸素運動が効果的とのことでした。そして更に調べると、脳科学の分野では、有酸素運動は脳を鍛えることができるということが分かってきたというのです。 

 つい最近まで、脳は成長期を過ぎると衰える一方と思われていたのですが、有酸素運動をすることによって、ニューロン(神経細胞)とシナプス(ニューロン同士のつなぎ目)が増強され前頭前野が活性化し、思考力も決断力も増すらしいのです。 

 また、アメリカの学校で行われた実験では、朝の授業の前に「0時間体育」を試みたところ、参加した生徒の成績が上がり、特に「0時間体育」直後に受けた教科に顕著な効果が現れるという結果が出たとのことです。なるほど、代議士の朝のハードなトレーニングも身体だけでなく脳にも効果があり、あれだけの様々な政策提言ができるのではないかと思えてきました。 

 しかし、私の学生時代の場合はバスケットボール部にて「0時間体育」の代表のような朝練をしていましたが、直後の1時間目の授業は疲労困憊(こんぱい)のため完全に熟睡しておりました。おそらく脳は全く鍛えられていないでしょう。当然成績も悪い方に影響がみられました。運動しても眠たくならない方法は研究されていないのでしょうか?(お松)

第540号 将来不安と消費の抑制