特例法に向けての世論づくりか?

2017年1月2日 (月) ─

 新年明けましておめでとうございます。今年も、よろしくお願い致します。
 
 年末年始の恒例の寺社巡りを終えて、静かな元旦を迎えた。今年は選挙が予想されるが、追われることのない仕事の進め方を心がけたい。

 さて、昨年暮れに、私が事務局長を務める民進党の皇位検討委員会では、陛下の退位に関する論点整理をまとめたところだが、政府側の主張について、メディアを通じ、「政府筋からの情報」という形で世論づくりが着々と行われていると感じている。

朝日新聞「今上天皇固有の事情」明記へ 退位特例法の先例化回避」
http://digital.asahi.com/articles/ASJD05G3XJD0UTFK004.html?_requesturl=articles%2FASJD05G3XJD0UTFK004.html&rm=328

毎日新聞「特別立法、天皇の意思明記せず 退位要件で政府方針」
http://mainichi.jp/articles/20170101/ddm/001/040/098000c

 とりわけ毎日新聞の記事では、内閣法制局の見解として、「天皇の意思を退位の要件とすることは「憲法改正事項になる」との見解を示しているという。天皇の行為は、憲法が定める国事行為▽象徴としての地位に基づく公的行為▽宮中祭祀(さいし)や私的行為などその他の行為・・・に3分類される。法制局は、天皇の意思による退位を法律で明記すると3分類に当てはまらず、天皇が政治に影響を及ぼす可能性が残るとする。」と報じている。

 要は、天皇の意思による退位を認めることは、憲法上許された天皇の行為にあてはまらず、憲法第4条の「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。」に反する国政上の行為を、天皇に認めてしまうことになりかねないと主張しているのだと思われる。

 しかし、そもそも退位は天皇の国政上の権能に基づく行為ではなく、憲法2条で規定された「皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。」という規定に従い、皇室典範に定められた行為を行っているに過ぎないと解すことができ、4条には反しないと考えるべきだ。

 第4条の趣旨は天皇の行為を制限することで、天皇が国政への影響を及ぼすことを防ぐためのものだが、天皇の地位の継承については、外交や経済政策とは性質が異なる。天皇の地位は天皇の意思無しに成立し得ず、退位についても天皇の意思無しには成立し得ない。そして、その地位の継承についても天皇の意思を尊重するのが妥当である。天皇の意思を尊重しても、国政への関与を禁じた4条の趣旨には反しないと考えるべきだ。

 また、憲法は2条で独立して皇位継承の規定を設け、皇室典範によるものとしており、その内容に制限を加えていない。

 さらに、民進党の論点整理では、天皇の意思を退位要件の一つとして皇室典範に規定する以外に、三権の長や皇族が参加する重みのある会議である皇室会議の議決を必要としており、実質上、天皇が自らの意思のみで退位して国政に影響を及ぼすことは無いと言える。

 この論点に代表されるように、政府から聞こえてくる検討状況は、形式論に過度に重点を置きすぎ、本質を突く議論を回避しているように思われる。その最たるものが、皇室典範改正ではなく、天皇陛下に限り退位を認める「特例法」による対応を検討している点だ。新年となり、政府は、「特例法」に向けての世論づくりをマスコミへのリークによって行いつつあるとみるべきだ。

 しかし、民進党の論点整理でも触れたが、憲法2条は、皇位の継承について、「法律」一般ではなく、「皇室典範」によることを明記している。違憲の疑いを避けるならば、皇室典範の改正という方法で行うべきだ。また、実質論としても、「皇室典範と天皇・皇族の人権」という問題に我々は向き合わなければならない。皇室典範については、他の法律と異なり、裁判所による人権救済の観点からの是正は期待できないため、立法府の責任は極めて重い。天皇の人権という観点も踏まえつつ、皇位の承継は、「特例法」といった小手先の対応ではなく、皇室典範の改正によるべきだという点を改めて強調したい。大島衆院議長は、年頭所感で「必要に応じて各会派の合意形成に向けて努力をしたい」と強調し、既に各党代表者を集めた協議は1月中にも初会合を開く方向で調整しているようだ。

 年始から、皇位承継という国の根幹に関わる極めて重要な与野党間の議論がはじまる。議論の本質から逃げることなく、慎重かつ精緻な議論を行っていきたい。

特例法に向けての世論づくりか?