外環道建設について
先日、猪瀬氏の論文で具体的に指摘があったことについては持論を述べた(2011年12月13日 まぶちすみおの不易塾日記 「『難癖』とは何事か!」)。
そのうえで論文の本旨である外環道については、様々なご意見があると思うのでここであらためて私見を述べておきたい。
環状道路の必要性については論を待たないし、これまでも否定してきたことはない。
そして、今回の東日本大震災で、災害支援においてこの外環区間がネックになったという事実は一切ない。
救援活動に必要な道路機能には、遠方からの救援物資などを運搬する放射状の高速道路の通行確保が第一である。そのため、放射道路の多重化、構造の耐震強化が重要となる。
さらに都市内においては、これらの放射道路のICから避難施設へアクセスする幹線道路の通行確保が重要となる。
つまり、都市内では、外環道のようにICによって入出路が限られてしまう高速道路の整備よりは、環八など、放射線状高速道路ICから避難所へアクセスする一般道路の沿道建築物の耐震強化、不燃化の方がより重要なのである。
また、外環道は、大深度に建設される特殊な構造の高速道路であるため、大震災発生時の救援活動に過度の期待を寄せることは避けるべきである。
そのうえで外環道の整備について言えば、合併施行によって早期整備が可能になるという「整備手法による解決」というのはもはや幻想にすぎないことは、以前にも述べた。
さらに、外環は大きな交通需要が見込まれるが、桁違いの巨額の事業費を考えると、そのほとんどを税金で整備せざるを得ないことは明らかである。通常の高速道路建設費は、1km当たり数十億円程度だが、外環はおよそ1000億円規模。一方、得られる料金収入は、通常の高速道路とほとんど変わらない。
過去の合併施行方式においては、有料道路事業費の額は、将来交通需要から見込まれる料金収入によって決まる仕組みであった。また、その将来交通需要は、国土交通省が決めており、高速道路会社が競争することによって変わるような余地はない。
さらに、管理コスト、資金調達コストも高速会社間でほとんど変わらないため、有料道路事業費の額は、会社間でほとんど変わらない。
繰り返しになるが、そもそも高速会社により多くの借金をさせて料金で償還させ、税負担を軽減するという発想は幻想にすぎないのである。
高速道路無料化政策の根本の考え方は、今ある高速道路という国民の貴重な財産を最大限有効活用し、より多くの潜在的効果を引き出すことにある。
料金がネックとなって使われない路線は、完全に無料化し、日常交通にも解放し、最大限の有効活用を図る。都市部の路線では、交通需要管理(TDM)の観点から、十分影響を確認しつつ、最適な料金施策を検討する、というのが骨格だ。
特に首都高速、阪神高速に代表される、大都市圏の高速道路ネットワークは、TDM施策の実施や管理の効率化の観点から、有料道路とすることが現実的である。
外環も、接続される高速道路が全て有料道路であることを考えると、有料道路にすることがよりネットワークの効果を発揮できると考えられる。
また、外環をほぼ全額国費で作らざるを得ないことは、高速道路無料化とはまったく関係ないことであり、高速道路会社の経営状況は、これ以上借入金を増やすことによって建設が出来るような状況にないことは明白である。
そもそも外環の整備手法と、高速道路無料化とはまったく関係ない話だ。民主党は、新たな借入金を増やしてまで無料化を実施する考えはなく、ましてや建設のために高速道路会社の借入金をこれ以上増やすことは考えていない。
無料化施策は、今ある借入金をどのような手段で返済するか、という議論である。すなわち利用者のみが負担するのか、幅広い受益者が負担するのか、という道路という公共財に対しての本質的な問題を問うているのである。
麻生政権は、景気対策と称して、本来は当初予算で時間をかけて判断すべき、外環という巨額な費用を要する事業について、形だけの国幹会議の審議だけで、補正予算であるにもかかわらず無理矢理新規着手した。
通常、補正予算では新規事業は採択されない。このため、政権交代後、補正予算に計上された新規事業、4車線化事業についていったん凍結し、時間をかけ、再度その必要性を厳密に検証した上で、次年度の本予算において必要な事業費を計上した。
通常の事業と同様に、外環道事業も、開始当初は測量及び試験費が主体であり、多くの予算を必要としない。その後、用地買収の進捗などに応じて、本格的な工事が可能となる段階では、予算の増額が必要となる。このため、事業開始当初の予算額によって100年かかると表現することは道路事業を理解していないに等しい。
トンネル工事に着手するのは、そのために必要な用地買収が完了するなど、着工に向けた準備が整ったためであり、整備手法が紆余曲折したためではない。
そもそも民営化の成果は、個別路線の収支を明らかにしただけで、民営化後の建設手法については、その個別路線の料金だけで整備されているのではなく、ほとんどが既存の高速道路の収入によって整備されているだけである。
つまり、道路公団時代と何ら変わらないのである。
高速道路会社そのものに国費を投入して不採算路線の整備が可能となる手法がなくなったことは評価できるが、合併施行は形を変えた同じ手法に過ぎず、まだ今後も、高速会社が借入金を増やすことにより、建設が可能であるという発想こそ改めなければならない。
たとえ有料道路とすることが有効な場合であっても、高速会社の投資は、最小限度の施設にとどめなくてはならない。
外環の整備を有料道路方式を基本とするなど、まだ今後も、高速会社が借入金を増やすことにより、建設があたかも永遠に可能であるという発想こそ見直さなければならないものなのだ。