第814号 増税の前にすべきことはないか

2017年12月16日 (土) ─

 特別国会が閉会し、14日、与党は来年春からの税制の枠組みを決める「税制改正大綱」を決定しました。内容を見ると、選挙では示されなかった「増税」路線が目立ちます。

◆「増税」に突き進む政府
 先の衆院選で自民党は、消費税を予定通り再来年10月に10%に引き上げ、増税分を社会保障の充実や教育の無償化に振り向けることを中心的な公約としていました。

 この公約を掲げ衆院選で勝利した以上、特別国会では消費税増税分を社会保障や教育のどの分野、どの範囲にどれほど使うのか、それによって財政規律はどのように変化するか等について具体的に提示し、議論する責任があったと考えます。

 しかし、国会開会中に政府与党から次々と出てきたのは、自民党の先の選挙公約では示されていなかった増税案でした。年収850万円以上の会社員に対する「所得税増税」、紙巻きたばこについて一本あたり3円増税、加熱式たばこについても大幅に税率を引き上げる、「たばこ税増税」、海外旅行などで出国する際に1000円程度を徴収する「観光促進税導入」、森林保護を名目に1人1年1000円程度を徴収する「森林環境税導入」、これらは全て選挙が終わってからの短期間に矢継ぎ早に提示された増税案です。

 一方で、法人税などで減税も行うとしていますが、個人の消費低迷こそが景気回復の妨げとなっている中、消費税増税に加えて個人に対する増税ラッシュを強行すれば、実体経済を冷え込ませるばかりです。そして何より、選挙直後に、選挙公約で示されていなかった増税をこれだけの規模で行うことは、国民への背信行為と考えます。

 与党は確かに選挙に勝利しましたが、それが即すなわち政権への「白紙委任」を意味するものではありません。「公権力」を握る政権はそれを肝に銘じ、政権運営を行うべきです。

◆増税の前に、使い方を正せ
 一方、特別国会においても、森友・加計問題等の疑惑について、国民が納得する形での説明は行われませんでした。

 そればかりか、公金の使われ方に関し、スーパーコンピュータの開発会社社長が助成金を騙し取った疑いで逮捕され、その関連会社に文部科学省から52億円もの融資が行われていたことが新たに発覚しました。この助成金の不正受給に関し、政権中枢の人間が関与したのではないかとの疑惑も持ち上がっています。

 集めた税の使い道である、公金の使われ方が捻じ曲げられてしまっている疑いがある中、増税を押しつけられる国民にとっては、増税について納得できる状況ではありません。

 「税」は、国民と政治との間の信頼関係の上に成り立っています。そうである以上、政府・与党は、公約になかった増税を行う前に、まずは公金の使い方が適正かを厳格に検証し、国民に説明することが必要です。

 野党側も、政治の一翼を担う以上、単に政治家個人の疑惑の追及に終始するのではなく、公金支出の透明化と適正化のための方策を質疑等で具体的に提示していく必要があります。公金支出のあり方、税のあり方を通じて、「政治の矜持(きょうじ)」が試されていると感じます。(了)

 

森ちゃん日記「今年一年」
 師走ももう半ば、奈良マラソンも盛会に終わり、県内では春日若宮おん祭を迎え今年一年の締めくくりへと着々と進んでいることを実感します。

 全国的な大寒波の到来に真っ白に染まる津々浦々の観光名所をニュースで目にする中でも、奈良は変わらず淡々といつもの冬を迎え、870年以上にもわたり不変に途切れることなく続くおん祭の歴史とともに、変わらない奈良らしさの良さを感じます。

 先日、全国から集まった153,594票から選ばれた今年一年の世相を一字の漢字で表す「今年の漢字」が「北」に決まりました。第1位には7,104票が集まり、その理由としては、北朝鮮のミサイル発射や7月に甚大な被害をもたらした九州北部での豪雨、北海道産のジャガイモの不作によりポテトチップスが一時販売休止したこと、北海道日本ハムファイターズに注目が集まったことが挙げられました。2位には3,571票の「政」、3位には3,323票の「不」が選ばれ、2017年は明るく朗らかなニュースよりも、激動の中で起きるさまざまな出来事が皆さんの心に残っていたことが強く反映されていました。先に発表されたユーキャン新語・流行語大賞では、年間大賞に「インスタ映え」「忖度」が選ばれましたが、同じく2017年がどんな年であったか、あらためて少し考える機会になりました。

 日常の生活の中でも、日本経済もその好景気はバブル期を超えて戦後3番目に息の長い回復を続けていると報道されていますが、多くの方にバブル経済を超えるようなその実感はなく、商店街を歩いていても、それほど好景気なのか、と疑問に思われる声をよく耳にします。家計における個人消費も依然と低い水準であり、有効求人倍率がバブル期を超える高い水準まで改善してる中、来年4月から新たな社会人スタートを切る大学生の就職活動も売手市場となっていますが、直接賃金に結び付かない実感なき好景気の中で、街の賑わいも例年と変わらずある中、どこか心に引っ掛かるものがあります。

 「北」という漢字は、2人が背を向けて話をしないという字だそうで、「皆が仲良く、そして、話をしないことには通じませんから、一生懸命に平和に向って努力していくことが大切」であると、清水寺の森貫主の言葉からも来年こそは、それぞれが相手と正面から向き合い話し合うことのできる平和なる良い年になればと願っています。

第814号 増税の前にすべきことはないか