第539号 ワシントン・リポート②
先のワシントン訪問で、様々な立場の政治関係者とお会いする機会を得て、対話を通じて米国の安全保障のスタンスの一部を垣間見ることができました。
◆中国
経済成長により、中国では環境、水処理、ヘルスケアを含めた社会保障制度など、先進諸国が抱える問題を内包するようになりました。しかしながら指導層の中でもこうした事態への解決方法については確固たる物が打ち出せていないようです。
加えて、現在中国国民は「アラブの春」に魅了され、民主化あるいは自由化の潮流に非常に敏感になっています。人民日報やCCTV(中国中央電子台)の情報を誰も信じず、政府がいくらSNSを制限してもその勢いは留まるところを知りません。
現在の中国の成長の伸びからすると、5年後には米国を抜く経済規模になり、2015年には国防費は日本の4倍、米国の半分にまで増大すると考えられます。財政健全化が急がれる日本が防衛予算を増やすことは困難です。そうした限られた条件下にあることを前提として日米の協力を緊密に行わなければなりません。
◆北朝鮮
北朝鮮は今年の米国と韓国大統領選によって自らの環境がさらに悪化することはないと考えているようです。特に北朝鮮に対して厳しい李明博政権が交代すれば明らかに韓国は軟化すると考えられます。ああした行動はこのような状況を察知しているからこそのものです。ミサイル打ち上げは失敗しましたが、核実験等と併せ今後も継続してゆくと思われます。
平壌での式典の際の表情や読唇諜報の結果、金正恩には極めて好戦的な発言が見てとれました。実際の戦争を経験していない金正恩だからこそ、金正日よりも危険性が高い可能性があります。こうした北朝鮮の態度について重要なことは、引き続き中国を関与させる努力を怠らないことです。
◆日米:沖縄
沖縄駐留海兵隊の一部をグアムなどに移転することは、むしろ米国が今後のアジア太平洋において効果的な抑止力を持ちうることになると考えます。
米国はこれから新たに基地を作る予定はありません。従って今必要なのは「基地」ではなく「場所」であって、多くの選択肢を持つことが政治の信頼性を高めると考えています。
普天間移設が他条件との交渉カードにならないように気をつけなければなりませんが、いずれにしろ日米政府間で「2+2」で明確な意志が示されており、全てはそれに基づいて決定され行動されることになるのは言うまでもありません。
震災以降のトモダチ作戦など、米国の行動に対する日本国民からの感謝の声は、両国が同盟国としてより強い関係性を作ろうとする意思を後押ししているように思います。印象的なのは「震災における我々の行動は慈善ではなく義務」という政府関係者の言葉でした。隣人の気の毒な出来事、ではなく、何があっても助けなければならない家族の一員の危機、という強い義務感の中には戦後60年を超え、混沌としている時代だからこそ新しいパートナーシップを構築し、信頼できる関係を日米においては崩したくないという米国の率直な感情を感じました。(了)
スタッフ日記「夏の日の想い出」
奈良市内の西部には今も開発を免れた野山の緑が少し残っています。
この仕事で移動している時、車窓から鮮やかな緑の雑木林の光景が目するとなぜか必ず思い出す子供の頃の光景があります。
子供の頃、僕はカブトムシが大好きでした。夜店で買ってきたカブトムシを一日中眺めていたり、虫取りが得意なクラスの友達なんかに教えてもらって、あちこちで長い夏の日が暮れるまで虫取りをしていました。それでもなかなか簡単には捕まえることが出来なかった僕は周りの大人や仕事で忙しい父や母にも虫取りに連れて行って欲しいといつもせがんでいました。大人と一緒に行けば簡単に捕まえることが出来ると考えていたんだと思います。
「カブトムシを捕りに連れて行ってあげる」。あるとても暑い夏の日、母親が突然、僕と上の妹と3人で自転車で30分ぐらいかかる市内の西部へ連れて行ってくれたことがあります。僕たちは虫取り網を持って日が暮れるまであっちこっちの草深い雑木林をやみくもに歩きまわりましたが、結局その日、一匹も捕まえることが出来ませんでした。とても日射しのきつい暑い夏の日でした。その時に何か母親と交わした会話を覚えているわけではなく、ただそれだけの思い出なのですが。
夏の夕暮れ時に、かすかに記憶に残る場所に出くわすと、母親が連れていってくれた夏の虫取りの光景を思い出します。
この夏で母親が他界して丁度10年になります。(チュウ)