夢吉

2008年2月24日 (日) ─

 小さな居酒屋。本当に小さい。カウンターだけで、厨房あわせても二坪あろうかという店内。

 しかし、新たなお客さんが来ると「あっ、じゃ俺帰るわ」と言って席を立つ人が必ずいるから、不思議に小気味良く回転する。ぎっしりという言葉は似つかわしくない。ゆったりと人が寄り添っているような空間。

 浪人中、先の見えないトンネルの中にいるような気分だったとき、ご縁をいただき訪れた。

 カウンターに並んだ惣菜を、これちょうだいと指差しながら焼酎をあおる僕に、「がんばってるわね…」と言葉少なだけどやさしく微笑みかけてくれたママさんの笑顔が印象的だった。

 なんだかとても、癒された。

 選挙に勝てるか、などということがちっぽけなことのように思えた。奈良が好き、お酒が好き、そして何よりもこの店のママさんのちょっぴり愁いを帯びた笑顔が好き。集まっている人の顔には皆一様にそう書いてあるようだった。

 時折、足を運ぶようになった。もちろん、浪人中の身。寸暇を惜しまず選挙運動をしなければならないのはわかっていたが、フト気持ちが滅入ったりしたときには足を向け暖簾をくぐった。

 そのお店の20周年のお祝いが盛大に開かれた。

 派手なことを好まないママさんだったが、常連のお客さんが発起人となって会がセッティングされた。現職となって4年。数えるほどしか行けなくなったけど、ぜひ伺いたいと万難を排して参加。

 こんなにもたくさんの方に支えられてきたのかと驚くほどの人が駆けつけていた。

 奈良赴任中に常連だったという東京からの方々や、全国からのお客さんが一堂に会す。僕も見慣れた常連さんから声かけられ、懐かしさでいっぱいになる。

 いつも素敵だけど、一段と美しくそしてドレスアップされたママさんが少し照れくさそうにそしてうれしそうに笑顔で迎えてくれた。かたわらには娘さんも一緒だ。つらい苦しいときに支えてもらったご恩のある人々の晴れやかな姿をまぶしく見つめていた。

 小さいけれど、癒しと夢のある場所、「夢吉」。そして、素敵な道子ママ。20周年のお祝いは、少しの時間、僕をやさしく解きほぐしてくれた。

夢吉