原子力発電所の耐震設計について(その1)
かねてより指摘してきた原発の耐震設計の問題点についてまとめておきたい。
僕は、7月に補佐官を退任するときにも原発の安全宣言はストレステストなどでごまかすべきではない、安全基準の見直しが必須であると発言してきた。とりわけ、福島第一原発の事故原因を津波だけに特定してしまい、肝心の地震動に対しての検証を行わないままでいいのかと、再三テレビやネット上でも発信してきた。
その後、原発の耐震性の問題について一石を投じようと補佐官退任後に改めて役所に原発の耐震設計技術指針や技術規定を要求したところ、なしのつぶてとなり、詳細を詰める作業の中断が余儀なくされた。
相手も身構えるわなぁ、ま、しかたないかと長期戦の構えでいたところ、ようやく資料が手に入り、検証を行ったところである。技術論と共に、詳細に及ぶので分けて論じる。
1.無責任な耐震設計の考え方
1)無責任な体制
まず、原子力発電所の耐震設計に関する指針等は多岐にわたる。
一つは、原子力安全委員会決定の「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」( H18.9.19)がある(以下「指針」)。この指針は、事業者(電力会社)が発電用軽水炉原子炉の設置許可を申請した際に、国(経済産業省保安院)が行う安全審査のうち、「耐震安全性の確保の観点から耐震設計方針の妥当性について判断する際の基礎」として位置づけられている。
一方、事業者が設置許可の申請を行う場合、耐震設計に用いる地震動の策定は、(社)日本電気協会原子力規格委員会が策定した民間基準である「原子力発電所耐震設計技術指針基準地震動策定・地質調査編」に基づいて行う。この「技術指針」には他に、「重要度分類・許容応力編」、「追補版」、さらに「原子力発電所耐震設計技術規定」等がある。
つまり、耐震設計における具体的な地震動の設定は、民間が決めた基準に基づき、事業者が行う手続きとなっており、国はその妥当性を判断するだけで、その判断基準も原子力安全委員会という第三者に委ねている。
このように、耐震設計を事業者任せにすると、安全性よりもコスト優先となるため、条件が甘くなりかねない。僕が言い続けてきたことは、原子力行政全体の責任の所在を明確にすることであり、特に耐震設計の前提となる地震動の設定に関しては基準制定だけではなく、実際の設定そのものについて、安全性を最優先とするために国が責任をもって行うべきだと考える。
2)福島第一原発事故を想定していた指針
さて、そこでこの「指針」では耐震設計における地震動の策定方針を規定しているが、この指針に基づき策定された地震動を上回る強さの地震動が生起する可能性は否定していない。
いわく「地震動を前提とした耐震設計を行うことにより、地震に起因する外乱によって周辺の公衆に対し、著しい放射線被ばくのリスクを与えないようにする」という極めてまっとうな基本方針を最初に示しているのだが、その後が問題だ。
「策定された地震動を上回る強さの地震動が生起する可能性は否定できない」としてその場合のリスクを「残余のリスク」と称し例示している。
「施設に重大な損傷事象が発生すること、施設から大量の放射性物質が放散される事象が発生すること、あるいはそれらの結果として周辺公衆に対して放射線被ばくによる災害を及ぼすことのリスク」と位置づけている。
これは、ずばり福島第一原発事故被害そのものではないか。
そして、これらを可能な限り小さくするための努力規定を耐震設計以外での対応として設けている。
今回の福島第一原発事故はまさに、「指針」に示す「残余のリスク」に相当し、現行の「指針」では福島第一原発事故は、想定外のリスクではなく、驚くべきことに、あらかじめ事前に想定されていたものに他ならない。
しかも、新潟県中越沖地震での柏崎刈羽原発、今回の東北地方太平洋沖地震での福島第一原発において、原発に関連した地震で近年2度も設計上の地震動を超える地震動を計測している。柏崎刈羽原発については、東電は「原発には安全余裕度が設けられていて、今回の地震による原発の揺れも許容できる範囲内だった」(H19.7.23)と地震動を超えても余裕の範囲内であると結論づけた。
しかし、そもそも想定している地震動を超える地震が実際に複数発生し、それが事故と関連している可能性もあるとなれば根本的にそもそもの地震動の策定方法に問題があると考えるべきである。
福島第一原発事故のような事故は、二度と起こしてはならないものであり、このような事故が起こることを前提とするような無責任な発想に基づく耐震設計ではなく、最大かつ最も危険な状況を耐震設計の際に想定するような考え方に改めるべきである。
では、現行の地震動の策定にどのような問題があるかについては、引き続き次号で説明をしたい。