チェルノブイリ法に学ぶ移住権と帰還権
原子力災害を被ったものとして、チェルノブイリ被災地に学ぶことは多い。
原発事故収束担当の総理補佐官時代もチェルノブイリ関連の情報のアクセスは頻繁にかつ密に行っていた。
そして、今、原発事故収束PTでもチェルノブイリ法を学びながら検討を開始している。現代経営研究所の尾松亮(おまつりょう)主任研究員からの話を聞いた。
1990年4月25日のソビエト連邦最高会議決議N1452-1にはチェルノブイリ法採択前の状況が、真摯にかつ厳しく次のように記されている。
「放射能汚染の被害を受けた地位の社会的政治的状況は、極めて緊迫したものとなっている。原因は学者や専門家たちによる放射線防護に関する提案が互いに矛盾していること、不可欠な対策の実施が遅れていること、そしてその結果として住民の一部が地方や中央の政治に対する信頼を失ったことである。事故被害の状況の本格的な調査や、根拠ある対策プログラムの策定は遅れている。このことは放射能被害を受けた地域住民に法的根拠ある憤慨を引き起こしている。」
まるで、今の我が国の状況を表しているかのようだ、と驚嘆する。
そして、そのことは、自らも当事者の一人として重く受け止めなければならないと思っている。
さて、チェルノブイリ法は事故被災地を「義務的移住」、「移住権付与」、「移住権なし」と区分し「移住権」を規定している。
この移住権はチェルノブイリ法17条で、強制移住対象地域外で、放射線量・土壌汚染度が一定レベルを超える地域で他地域への移住を希望する住民に移住費用、喪失資産補償、移住先での住宅・雇用支援を受ける権利として規定している。当該地域では居住継続も認められ、居住者に対しても一定の支援がなされるようになっている。その付与基準は、1ミリシーベルト/年超と土壌セシウム137濃度が15キュリー/平方キロメートルである。
当時のソ連では土地の私有が認められなかったため、喪失資産の補償には土地は含まれてはいないが、「住まう権利」と「移る権利」を規定することにより極端な流出を防ぐことに効果的であった。さらに、チェルノブイリ法には規定されていないが、帰還権をセットで考えるべきであるとの議論は注目したい。
「帰還権」とは国の避難指示で移住を余儀なくされた住民及び移住権を行使して他の地域に移住した住民が、一定の期間を経て元の地域(居住禁止地域を除く)への帰還を希望した場合に、移送できない資産の補償、帰還の費用、帰還先での住宅確保・就業に関わる支援を受ける権利である。
これこそが、一方通行の人口減少を防ぐ手立てになるとの尾松さんは力説する。
原発事故収束PTでも、順次議論を行っていく。