第1202号 高市発言と日中関係

2025年11月22日 (土) ─

高市総理の予算委員会での存立危機事態に関する答弁が引き金となり、日中間に緊張が高まっています。

 

◆高市答弁の意義

今回の議論の流れを整理してみます。岡田克也委員は、安保法制に関する従来の政府の姿勢を確認した上で、高市総理が一年前の総裁選の際に、中国による台湾の海上封鎖が発生した場合に存立危機事態になるかもしれないと発言したことに対し、どういう場合に存立危機事態になるのかということを質問しました。

岡田氏はインタビューで、この質問に対しては存立危機事態が限定される方向の答弁を期待していた旨述べています。つまり、海上封鎖が発生した場合でも状況は様々であり、存立危機事態の認定は慎重に行うべきとする立場からの総理の姿勢の確認です。

しかし、総理は、「戦艦を使って、そして武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になり得るケースであると私は考えます。」と答弁しました。

「どう考えても」という表現は、「存立危機事態認定」を否定できないとまで明言していると解されるものであり、存立危

機事態の運用を厳格に、限定的に考えてきた歴代内閣の姿勢と比しても、踏み込み過ぎた発言であることは間違いないと思います。

 

◆あいまいな外交戦略の意義

政治家ははっきりとものを言うべきであるという主張は、外交関係では必ずしも適切ではありません。

各国にはそれぞれ思想や国内情勢に違いがあり、互いに譲らず、自国の主張を応酬し合っても建設的でないことが多々あります。あえて互いの見解をあいまいにすることで、互いに過激化して引けない状況を回避する「智恵」というものが、今回は日中双方に欠けていると感じます。

また、このような状況になったのは、微妙で答えにくい質問をした岡田氏の責任であるとの批判もありますが、それは全くの見当違いです。

国会の役割の一つは行政の監視であり、内閣が変われば、その都度外交や経済の基本方針を確認するのは当然です。

内閣に忖度して馴れ合いの質問が繰り返される与党質問とは違い、国会の存在意義を示すのが野党の質疑でもあります。

まして、今回の岡田委員の質問は、総理の発言と歴代内閣の姿

勢の整合性を問うものであり、十分議論に値する質問でした。

 

日中経済関係への影響

国会は言論の府であり、議論は自由ですが、政治家は常に、自らの言動が現実に引き起こす事態を見据えて発言に細心の注意を払わなければなりません。

そして、一議員と総理では、当然、影響力が桁違いです。

中国はすでに、日本への渡航自粛勧告、日本産水産物の輸入停止など、事実上の対抗措置をエスカレートさせており、工業製品やレアアースの規制など、さらに強硬な措置に及ぶ可能性さえあります。

また、中国との対立で日本の経済損失は2兆円近くに及ぶとの試算もあります。

この点、総理は自らの発言の影響力を軽く見ていたのかも知れません。

このまま互いに非難を続けているだけでは日中関係は平行線のままです。

ネットでは対中関係で威勢の良い言葉が目立ちますが、経済・生活への悪影響は必至です。政府見解を自ら踏み外してしまった高市総理は、発言の撤回を行うことが最も早くかつ適切な措置であると思います。誤れば改める。リーダーとして適切な対応を求めるところです。

 

 

スタッフ日記「秘仏」

ようやく散策が気持ち良い季節になったと思ったら早くも冬の気配が感じられる最近ですが、紅葉を楽しむ寺社めぐりにはちょうど良いシーズンです。

全国各地の寺を回っていると、「本尊は非公開」という張り紙を目にすることがあります。いわゆる「秘仏」です。秘仏の起源は不明ですが、普段、人々の目に映らなくすることで、逆に神秘的な存在感を高める意図があったのかも知れません。関西の巨刹のみならず、ひなびた地方の寺にも、数百年単位で保存されてきた秘仏が多く鎮座しています。

ただ、絶対に公開されない秘仏はごくわずかで、多くの秘仏は特定の日にちに拝むことができます。やはり、たまにはお姿を拝さないと、ありがたさも薄らぐのでしょう。御開帳は1年に1回のお祭りの日であったり、数年に1回で

あったりと様々ですが、開帳の期間は驚くほどの参拝者が押し寄せます。

御開帳までの間隔が長ければ長いほどレア度が増し、参拝者も熱狂を帯びますが、比較的多いのが33年に1回御開帳です。理由は、観音は33の姿に変身して衆生を救うとされていることからのようです。西国33か所めぐりなど、仏教に33は特別な数字なのでしょう。33年に1回ならば、だいたい人生でチャンスは2~3回。昔の人なら人生1~2回。開帳されたらぜひ行かなければと思う絶妙な周期だと思います。

ただ、上には上があるもので、最近、といっても20年近く前には、217年ぶりに公開された秘仏もあるようです。拝観の機会を逃した今となってはおそらくもうノーチャンス。来世まで待って拝観するしかないようです。 (アタリ)

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