第1199号 高市内閣とトランプ
28日、6年ぶりに来日したトランプ大統領と高市総理が首脳会談を行い、主に安全保障や関税に関する合意実施等が話し合われました。
◆親睦ありきの初会談
今回は高市総理による対米外交デビューということで、米軍空母への乗艦や大統領専用ヘリへの同乗などが盛り込まれ、トランプ大統領をノーベル平和賞に推薦するなど若干演出過多な印象を受けましたが、首脳同士の初顔合わせによる信頼関係の構築という意味では効果的であったと考えます。一方、親睦を前面に出した分、具体的な外交交渉にまでさほど深く踏み込まなかった印象を持っています。
首脳間で二国間文書として発出された文書は2点で、一つはトランプ関税について7月に合意がなされた80兆円の対米投資等に迅速かつ継続的に取り組むことを確認する文書、もう一つは重要鉱物・レアアースの供給確保に向けた協力強化確認の文書です。これらは従来の合意や協力関係の延長上にあるもので、まずは無難に安全運転に努めたということでしょう。
一方、その後実施された米中首脳会談では、アメリカが中国に課している追加関税の引き下げが決まるなど、新たな駆け引きと合意がありました。これが本来的な「外交」であり、親睦とは一線を画すものだと思います。
◆防衛増税の足音が
今回注目された安全保障の日本側負担増に関しては、総理は防衛費の増額に引き続き取り組んでいく決意を表明しましたが、その具体額や財源については触れられませんでした。しかし、日米関税合意では、日本が米国製の防衛装備品の調達額を数十億ドル(数千億円)規模で増加するとされており、これから確実に高額兵器の購入が迫られていく事になります。このような合意をした以上、防衛増税の必要性や具体化も含めて、総理は早急に予算審議の場で国会への説明を行わなければなりません。
防衛費の増額に関して、肝心かなめの自衛官採用者数は2024年度は全国で9,724人であり、これは募集計画の65%にとどまっています。この結果、本来必要な数に対する自衛官の割合を示す「充足率」は89.1%となり、25年ぶりに9割を下回りました。
自衛官の現員は、平成元年度に246,544人だったのが、令和5年度には223,511人と、約1割も減少しています。防衛の充実の掛け声の下に、装備品ばかりに高額な予算を使い、人を軽視する防衛政策が続いていることには疑問を感じます。防衛費を増額するにしても、人を重視した予算配分への質的転換が必要だと思います。
◆日米共通のインフレ対策
今、日米は共通の問題を抱えています。それは極度のインフレです。株価はダウ平均、日経平均双方で史上最高を記録し、一見景気は好調のように見えますが、アメリカでは住宅価格や生活物資が高騰し、住む家さえ確保できない国民が増加し、格差はより一層拡大しています。
日本も、マンション価格が過去最高を記録し続け、食料品価格の高騰は止まず、アメリカと同じく格差は限りなく広がりつつあります。
総理には、このインフレ=物価高対策をどうするのかという視点を持ってトランプと対峙して欲しかったのですが、目新しい対策は発表されず、国民生活が置き去りにされた感があります。経済大国となって以降の日本外交は、円の力を背景に、資金援助や投資を約束することで友好関係を築く形が多く見られましたが、完全に経済的余裕の無くなった今、「おもてなし」と「ばら撒き」ではない、国民の実益を重視した本来的な「外交」が必要な時期に来ていると思います。
スタッフ日記「帰りたい風景」
和歌山県にある熊野三山の一つ、熊野那智大社を訪れました。昔は興味のなかったお寺や神社に、今ではこんなも心を奪われてしまうのはなぜでしょうか。
中でも私が魅了されたのは大黒天堂。薄暗い空間に仄めく蝋燭の炎、天井から吊るされた提灯、奥で鈍く輝く那智七副神。言葉を失うほどの神
聖な空気が漂っていました。
東京に戻った今でも度々「あの場所に戻りたいなあ」と思ってしまいます。世界遺産などではなくても守りたい景色が、私の中にはたくさんあります。
先日訪れた大分県・別府の街。バブルの時代に賑わっていたであろう建物が点々と残る、少し寂しい街並み。数百円で入れる温泉が多数あり、地元の年配の方々が湯を楽しんでいます。街のあちこちから湯けむりが立ちのぼる別府の街を大好きになってしまいました。ただ同時に、観光客以外の若い人をあまり見かけないこの街は、数十年後どうなっているのだろう、と思うのです。
地方の人口減少には、交通の不便さや雇用の少なさなど、さまざまな要因があるといわれています。ニュースによれば、バス運転手の人手不足で便数も減っているそうです。
このまま失われていく景色が、地方の各地にどれだけあるのかと思うと、悲しくなります。
私はやはり、日本の文化が好きです。私が愛した景色を、百年先にも残すために、今、自分にできることを考えています。 (タマちゃん)



