第1140号 自衛隊は誰が指揮する?
例年にも増して猛暑が続く中、今年もまた、広島・長崎への原爆投下日、そして終戦の日を迎えます。私も6日、9日と広島・長崎での式典に参列し、戦没者のご冥福をお祈りします。
◆統合軍指令部設立へ
平和への思いを強くする真夏ですが、日米両政府は7月28日、外務・防衛閣僚による安全保障協議委員会を開催しました。そこで、アメリカは米軍と自衛隊の間の指揮枠組みに関し、在日米軍を再編して統合軍司令部を新設する方針を示しました。
今までも、安保法制の制定など、事実上、自衛隊が米軍の指揮の下に世界各地に部隊を展開することが出来る制度へ移行してきた感がありました。しかし今後は、いよいよ形式上も自衛隊が米軍の指揮下に入ることが明確になっていくことが予想されます。
さらに、アメリカが核を含む戦力で日本を防衛する「拡大抑止」に関する閣僚会合も開かれました。アメリカは、核を含むあらゆる能力を用いた日本の防衛に対する米国の揺るぎないコミットメントを表明し、日本側も歓迎しました。
唯一の被爆国として建前としては核兵器の廃絶を掲げながら、実際はアメリカの核の傘を利用せざるを得ない日本外交の二重性が、あらためて示された形です。
◆事実上は既に米軍の指揮下?
政府は今まで、あくまで米軍と自衛隊は各々の指揮系統を通じて行動するに過ぎないことを強調してきました。
新設される統合軍司令部についても、アメリカ国防長官は米軍の指揮統制に専念するとしています。
しかし、日米両国に圧倒的な安全保障上の情報格差があり、日本は米軍で使用されている兵器に頼っている以上、有事の際には事実上米軍の指揮下に部隊運用が行われることは軍事上の常識です。
例えば、一昨年、防衛原則の変更で、「敵基地攻撃能力」を自衛隊が保有することが示されましたが、標的となる「敵基地」の判断や実際のミサイル運用は、米軍の情報と技術に頼らざるを得ません。海上自衛隊が保有するイージス艦も、米軍の開発したシステムに基づいて運用がなされます。
そして、米軍と一体化して防衛を進めることは、高額のアメリカ製兵器を大量購入することにもつながります。
政府はすでにアメリカとの間で、トマホークミサイルを400発、約1694億円、イージス艦への搭載などミサイル運用システムのための関連機材が約847億円の、総額約2541億円の巨額契約を結んでいます。防衛増税が必要になるのはまさに、米軍と一体化した部隊運用のためなのです。
◆核に頼らない抑止力
日本には日本の守るべき国是があり、そのためには自立的な防衛が必要です。今後の日本の安全保障は、アメリカの核の傘に依存しない防衛を基本とし、同盟関係を維持しながらも決して指揮の下に置かれることのない、独自の防衛力を高めることが必要です。
しかし、防衛省では先日、「特定秘密」の情報や手当の受給などをめぐり、違反や不正が発覚し、自衛官らが大量に処分されるなど、組織としての信頼性が揺らいでいます。
独自の防衛力強化のため、組織としての信頼性を構築し直すとともに、不足している現場の自衛隊員の充足率を上げることや、国内における備蓄による継戦能力の確保など、自衛隊が単に米軍の下請け的存在にならない方向に向かわなければなりません。
また、世界を見ると、ロシアやイスラエルなど、核保有国でも紛争の当事国となっている現実があります。抑止力であるはずの核兵器が、かえって地域を不安定にすることもあります。決してアメリカの核の傘に抑止力を依存せず、独自の抑止力を高めていく事こそ、日本の防衛の未来の姿だと考えます。
スタッフ日記「“参った”の心持ち」
オリンピックが始まりました。開幕からの日本のメダルラッシュで寝不足の方も多いのではないでしょうか。
ところで、柔道には「参った」というルールがあります。
関節技や締め技を決められ、もう耐えられない、と思った時に相手の体や畳を2回叩いて負けを認めるシステムですが、投げられるにしろ、押さえ込まれるにしろ、反則負けをするにしろ、他の負け方は相手や審判が「お前は負けたんだぞ」と結果を突きつけます。一方「参った」は、自ら負けを申し出る、という意味で他の負けとはちょっと違います。
この「参った」をするとき、選手はどんな心境なのでしょうか?オリンピックに出るほどのアスリートですから、試合後の涙や歓喜、語られるエピソードから垣間見えるよりも何倍もの努力をし、苦しさに耐えてきたのは想像に難くありません。
そうして掴んだ大舞台で「参った」と自分から負けを宣言するわけです。技をかけられてから「参った」をするまでのわずかな時間、かけてきた思いと体のつらさの間で選手はどんな葛藤をしているのだろう?と、そんなことが気になって仕方ありません。
自らの手で勝利を放棄するということは、投げられるより何倍もキツイのではないか?そんな風に思うのです。
たまにそんなセンチメンタルなことを考えつつ、オリンピックが終わるまで深夜のテレビに向かって雄たけびを上げる私がいることでしょう。
それにしてもテレビは朝のニュースですらオリンピックの話題ばかりです。確かに選手の活躍は大きな関心事ですが、大事なニュースまでかき消されている気がして、いやあ、参った…。(シズ)