第1122号 再エネ移行の課題

2024年3月30日 (土) ─

 五條市に建設される予定だった広域防災拠点にメガソーラーを建設する、という山下知事の提案が物議をかもしています。

◆説明不足への住民の怒り
 現地は、もともと荒井前知事時代に買い上げされた土地で、南海トラフ巨大地震等の広域災害に備えるために、他府県への物資の輸送が可能な2000mの滑走路を備えた防災拠点が建設される予定でした。

 これほどの滑走路の必要性については、当初よりその是非が問われており、山下知事が誕生すると、計画の見直しが進められ、今年1月、メガソーラー計画が発表されました。

 報道では県の担当職員も昨年12月に構想を伝えられたとされ、計画が策定された経緯の詳細は明らかになっていません。

 当然、地元への説明と同意を経て発表された計画ではなく、防災拠点を作る、という説明に納得して土地を手放した地元住民や、当初の計画を進めてきた地元自治体からは、寝耳に水のこの計画に対して怒りの声が上がりました。

 政治に必要なのは何よりも丁寧な説明と、妥協点を見出す努力です。

 どんな政策であっても受け止め方は人や立場により様々です。今回県議会では、専門家や有識者の声を取り入れ、県全体の防災体制のあり方を図る方向で修正されましたが、異なるスタンスの人々の調整を行うことこそが政治の役割であり、政治家が政治家たる所以であると考えるとこれまでの拙速な流れは残念というより他ありません。

◆転換点の太陽光発電
 エネルギー価格が高騰し、火力発電にコストがかかること、能登半島地震であらためて明らかになった地震大国日本で、原発に依存するのは危険であることなどから、再生可能エネルギーへの転換自体は最大限進めなければいけません。

 ただ、今までの日本は、太陽光発電に偏った再エネ普及が進んできました。太陽光パネルは比較的安価で導入しやすいと言われますが、発電の効率が悪い、破損した際に有害物質が流れ出るおそれがある、火災・感電の可能性、使用されなくなった場合の破棄をどうするか、といった諸問題が指摘されており、また、山を切り開く大型メガソーラー計画は、環境破壊につながるとの指摘もあります。

◆これからの再エネ
 こうした太陽光発電の限界を踏まえて、再エネの中でも、今後は発電形態の分散が必要です。世界では、風力発電、とりわけ洋上風力発電が大きな注目を浴びています。

 日本では風力発電は陸上に大型扇風機が並んでいるイメージで、低周波による健康被害のおそれなどの問題がありますが、洋上、つまり海の上であればその問題も解消可能です。日本の排他的経済水域の面積は世界6位で、大きなポテンシャルがありますし、洋上風力発電は部品の数が多く、中小製造業を救う切り札にもなります。

 そして、日本近海は遠浅ではなく、すぐに水深が深くなる特徴を持つこと、風車の大型化による発電効率が期待できること、周辺環境への影響が小さいこと等から、とりわけ風車を海に浮かべるタイプの浮体式洋上風力発電には大きな可能性があると私は考えています。

 海洋国家日本としての浮体式洋上風力発電導入促進、そして北日本海からの浮体式洋上風力発電機からの連系線により送電網の整備により、今後の再エネ普及の大きな鍵となります。

 風力発電の他にも、水素、蓄電など日本が技術的優位性を持つ新エネルギーの開発を進め、安全・安心なエネルギーを自給して、日本の成長につなげていくべきです。

 

スタッフ日記「メタバースで新しい学び」

 4月は出会いの季節。特に入学や進級を控えた学生の皆さんは、新しい出会いを期待されていることでしょう。クラス替えがあるたびに、どんな人と一緒になるかわくわくした経験がある方も多いと思います。

 ところで、今までの教育は基本的には受け身でした。ランダムにクラスが割り振られ、同じ場所、同じ時間に集まって皆で同じ授業を受ける、という形式が、義務教育のみならず高校・大学でも取り入れられてきました。

 これに対し、最近、新しい試みとして、東京大学で「メタバース工学部」が設置されたと聞きました。メタバース工学部?何を学ぶところ?と思われるでしょうが、これは普通の学部ではなく、要は仮想空間内に学校が開校され、登録者は自分の分身となるキャラを作って、興味を持った授業が開かれているバーチャル教室に入り、自由に授業を受講できる場です。

 大学生や社会人を対象とする講座だけではなく、テクノロジーに関心のある中高生のための講座も用意されており、もちろん参加するための入試はありません。少しの意欲と知的好奇心があれば、誰でも最先端の知に触れられる環境が整いつつあるのは素晴らしいことだと思います。

 これからは、みんな一律の受け身の教育から、よりアクティブで個々の関心に対応した教育に変わっていくのだと思います。そのことにより、思いもよらない出会いも生まれるでしょう。

 そうした出会いがあり、いつでもどこでも、誰でも最先端の知にアクセスできる社会が、これからの未来を切り開く人材を育てていくのだと思います。(アタリ)

第1122号 再エネ移行の課題