■現実的な日本経済の見方

2023年1月24日 (火) ─

 私の経済学の師でもある、岩田規久男先生に来県ご講義いただき、日本経済に対する鋭い洞察力による分析を拝聴した。

◆完全なデフレ脱却に向け円安と積極財政政策が必要
 岩田先生は、年末にかけて円安になり、一部では金利引き上げを求める声があったが、これに対しては、金利引き上げによる円安抑制により、デフレが再発し、日本経済が再度、停滞すると警告を発する。それよりも、円安効果を活用すべきであり、円安により困難に直面する人々には財政政策で支援すればいいとする。

  確かに円安は、競争力のある製造業にとって追い風であり、まさに円安の効果を活用できる場面だ。一方で、再三指摘しているように、日本は再分配の仕組みが機能していないため、円安は、家計を苦しめることになる。再分配の仕組みを構築し、困難に直面している人に、コストをかけずに給付をする仕組みを構築することは急務であると再認識した。

◆国債発行は金利が上昇しない限りは将来世代の負担ではない
 また、「国債発行による財政政策の発動は将来世代への負担になる」という主張に対しても、鋭いメスを入れる。
経済活動が安定して、皆が働いているような時に、国債を発行し、財政政策を行えば、金利が上昇し、家を建てたかった人があきらめ、車のローンを組もうとした人があきらめる。
これが国債発行によるコストであり「効用」の「低下」だが、このような負担は、デフレから脱却しインフレ目標が達成された時に発生するものであるとする。

 現在の日本のように、日本銀行による金融緩和の下、低金利が実現している時に、財政政策を行っても、何ら問題は起きず、また、国債の負担が発生するわけではない。反対に財政を引き締めれば、経済を悪化させることになる。これが、安倍政権下で、日本銀行による金融超緩和政策に対し、消費税増税などの緊縮財政が経済の足を引っ張り、2%のインフレ目標を達成できなかった原因でもある。

◆財政破綻を扇動する財務省の触れられたくない過去
 増税しなければ財政破綻するという、半ば常識としての議論が展開されることに対しても鋭く批判された。財務省は、「財政破綻」を定義せず、一方で、財政破綻が近づいているとして危機を煽っている。
確かに、財務省自身が国債はデフォルトしないと、自ら表明している。

 これは、2002年5月2日に外国格付け会社、Moody’s、S&B、Fitchが日本国債の格下げをしようとした際に、黒田財務官(現在の日本銀行総裁)が外国格付け会社宛意見書要旨等として対外的に発表していることからも明らかだ。

https://www.mof.go.jp/about_mof/other/other/rating/p140430.htm

 この文の中で、「日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。デフォルトとして如何なる事態を想定しているのか。」としている。
外国格付け会社が国債のデフォルトを提起すると、デフォルトは考えられないと一蹴し、一方で、日本国内では、日本の財政は財政破綻の瀬戸際だと、危機を煽る。

確かに支離滅裂だ。

◆増税ではなく経済成長による税収増による財政再建
 財政再建の道筋についても、税収弾性値に着目すべきだと教えていただいた。
税収弾性値とは、1%経済が成長したときに、何%税収が伸びるかを示した数値である。

 財務省はこの税収弾性値を1.1%として、様々な試算を行い、財政危機を訴えている。

 1.1ということは、経済が1%成長すると、税収が1.1%伸びるということで、日本経済に占める税収の割合が安定しているとする。一方2000年から2019年までの経済データを計算した結果、税収弾性値が2.67だと岩田先生は指摘される。つまり、経済が1%成長すると税収が2.67%の増収となる。財務省が主張するような増税ではなく、経済成長により、税収が増収となれば財政再建が達成される、これがまさに、岩田先生の主張の根幹だ。

 日本経済を見渡すと、法人税を納税していない多くの零細・中小企業、また、累進税率の所得税も社会保険料の負担増や所得金額の低下の中で、所得税率が最低の5%や10%のところにいる家計が多くある。

 これが、日本経済が巡航速度に戻る過程では、赤字法人が黒字化することにより法人税収が伸び、また、所得が上昇する中で、所得の伸び以上に所得税収も伸びると考えられる。したがって、当面の間は、岩田先生が示されるような高い税収弾性値が実現すると考えた方が妥当だ。

◆岸田政権のもとで日本経済はデフレに後戻り
 以上のような日本経済や財政政策に対する洞察に対し、現在の岸田政権は、防衛費増額を梃子に増税の実現を目指すなど、増税・緊縮財政路線を歩んでいる。これにより日本経済はデフレへの後戻りのリスクが高いと分析できる。

 日本経済は、インバウンドの回復など、今後、経済が回復するとの見方がある。
一方、米国経済は消費意欲の減退など、決して明るくはない。また、中国経済も、ゼロコロナ政策の余波、さらには三期目に入った習近平政権が経済成長に対し必ずしも熱心ではないことを考えると、日本経済は油断できない状況である。

 このような中で、岸田政権は、国民的な議論を避けながら防衛費増額を額ありきで決め、そして増税路線まっしぐらである。確かに、岩田先生が警告するように、日本経済が、暗いトンネルから抜け出せない状況にあるのは間違いない。

■現実的な日本経済の見方