第913号 医療費「負のサイクル」を断つ
政府の全世代型社会保障検討会議は、医療費負担改革などについての中間報告を取りまとめました。
◆医療費は誰が負担すべきか
中間報告では、今は原則1割とされている75歳以上の医療費の窓口負担割合を、一定所得以上の方は2割とする方針が示されました。引き上げは2022年から始まる見込みです。
75歳以上の高齢者の医療費は年間16兆円にも上り、そのうち4割を現役世代の社会保険料負担に頼っています。医療費の増加を理由にして繰り返されてきた社会保険料負担の増加と消費税増税により、国民の消費は低迷を続けており、特に所得の低い層を直撃しています。日本経済の長期にわたる低迷は、医療費負担が大きな原因なのです。
医療費負担は、これまで、原則的に年齢による区切りで一定率を負担する運用がなされてきました。しかし、高齢者も多額の資産を有する方から、日々の暮らしに精いっぱいな方まで、さまざまです。今でも、現役並み所得者とされる、年収370万円以上の70歳以上の高齢者は、医療費として3割を負担することになっていますが、年齢による一律の負担から、年収や資産状況に着目して、負担する余裕のある高齢者には負担して頂く方向に転換することが必要だと考えます。
ただし、単に負担を求めるだけでは、将来の医療費負担への不安から、国民が消費を控え貯蓄する傾向が進んでしまいます。高額な医療費を負担できない方には、セーフティネットとしての医療の安価な提供を保障することもセットで検討すべきです。
◆経済成長で地域医療立て直しを
医療のもう一つの大きな課題は、地域医療の維持です。私も、このたびの交通事故の際、ドクターヘリで搬送され、地元奈良県の医療機関による迅速な治療を受けたため、一命をとりとめることが出来ました。
医療機関関係者の皆さまにはただ感謝の言葉しかありませんが、地域医療は、今、崩壊の危機を迎えています。今後、地域経済の衰退、そして過疎と高齢化が加速化する地方において、採算性を理由に医療機関が閉鎖され、住民の医療へのアクセスが困難になる事態が予想されます。
地域医療を守っていくためには、「消費税を増税して社会保障費用に使う」という理屈で繰り返されてきた、増税による経済の縮小と地域の衰退の「負のサイクル」に、ストップをかけなければならないと考えています。
増税で地域に出回るお金が減れば、地域経済は衰退し、人口は流出します。むしろ、経済成長によりパイ自体を増やして、医療費の「総額」ではなく、「割合」を減らしていくことが重要です。そのためには、減税や積極的な財政出動を組み合わせた経済政策により、着実な経済成長と地域の自立を促さなければなりません。地域経済が復活すれば、人口も戻り、地域医療も盤石となるでしょう。
私も、このたびの入院で、地域医療の維持について改めて考える機会を得ました。消費税減税研究会でも、消費税の地方税化が議論されるなど、地域のあり方が大きなテーマとなっています。今後も、税制改革や財政政策を通じた新しい地域医療のあり方を提言して参ります。
スタッフ日記 「運ぶコスト」
超高速の次世代情報通信サービス「5G」の導入が話題となる昨今ですが、一瞬で大量のやり取りが可能な情報の世界とは違い、実際の「物」を運ぶには今も昔も手間とコストがかかります。
江戸時代には運送業者は高度な専門職でした。飛脚に最速便を頼んだ場合には、江戸から大坂までわずか3日で物を届けたそうですが、代金は今の値段で100万円以上はかかりました。最近ではネットショッピングが当たり前となり、100円ショップで物を買う感覚で通信販売を利用しますが、送料は非常に安く抑えられています。利用者としては有難いのですが、これでは配送業者が人手不足に悩んでいるのも当たり前の気がします。
また、物を運ぶ技術にも匠の技が要求される分野があります。
先日、イギリスの大英博物館で、奈良の古社寺にある仏像を始めとする名宝の数々を観ることができる展覧会が開かれ、世界中から来館者で大盛況に幕を閉じたということですが、文化財の輸送は、傷一つ付けることも許されません。
壊れやすい仏像を運びだす際には、素手の手作業で和紙を巻きつけ、木の箱に入れて、衝撃を抑えながらゆっくりと皆で担いで運ぶ作業が必要です。長年の経験が求められる中で、遠い異国の地まで仏像を輸送する作業は、本当に大変だったと思います。
どこにいても世界中の情報を瞬時に得られる現代では、実際の物を運ぶことの大変さを忘れがちになります。物を運ぶためには大変な苦労とコストがかかることに思いを馳せ、運送のあり方を再考する時期に来ているのではないかと思います。(アタリ)