第1102号 地域の足を確保する
奈良市や生駒市を回っていると路線バス減便のご相談をよく頂きます。つい最近もお隣の大阪で金剛バスの路線が全廃されることが発表され、住民に混乱が起きています。いかに地域の足を確保していくかは、いまや全国的に緊急の課題です。
◆人手不足の原因は?
地域公共交通が確保できない最大の原因は、ドライバー不足です。
バスやタクシー業界はもともと慢性的な人手不足にありました。それに加え、ドライバーなどの時間外労働上限規制が始まる来年4月以降は、さらに人員の確保が困難になることが確実で、「2024年問題」と呼ばれて最近報道などでもクローズアップされています。
バスやタクシーは自由に料金を設定することが出来ず、かつ市場との関係で業績を急に伸ばすことも難しいため、ドライバーの待遇を大幅に改善して人員確保というわけにはいかないのが現実です。
このままでは地域住民の交通手段が失われるという危機意識から検討が始まったのが「ライドシェア」です。
◆ライドシェアとは
ライドシェアとは、道路運送法上認められていない、「一般のドライバーが、一般の車を用いて、有償で旅客運送をすること」と理解されていますが、その本質は、公共交通を需要にマッチした柔軟な供給体制に再構築することと考えます。
例えば、一般のドライバーがアプリを利用して、タクシー需要が増える時間帯のみに繁華街に出動したり、逆にタクシーがほとんど無い過疎地で、近所のお年寄りの通院需要を把握し、何人かを相乗りで送るなどの供給を行うことなどです。
ライドシェアは運行管理、整備管理、事故対応など、安全面に不安があるとされています。
タクシー会社は運転手の体調や車両の整備管理を行い、旅客の安全に多大なコストを負担しています。そこに一般人が個人で自分の車で参入すれば、管理が個人任せになってしまうため、事故などトラブルの可能性が高まる心配が出るのは当然です。
また、安全面以外でも一般個人が参入するほどの対価を果たして得られるのか、など、様々な課題が示されています。
しかし、ドライバーがいないという担い手不足の問題に現実の私たちは直面しており、対策がなければ、間違いなく公共交通の衰退は進みます。交通手段の選択肢を増やし、公共交通を確保すべきという観点から、慎重かつ抜本的対策を打ち立てるべく議論を進めるべきです。
◆成長産業となるか?
その際、ライドシェアの定義も曖昧なまま議論するのではなく、公共交通を将来的にいかに確保していくかという視点を持つことが重要です。近未来には自動運転による旅客輸送機関が当たり前になることも考えられますが、まずは、現時点での「地域の足の確保」が求められます。
そのためには、ビジネスの観点でライドシェアが成立するかが問われます。
過疎化、高齢化が進む地方でライドシェアを解禁したとしても、需要自体が乏しければ、ビジネスとして新規参入する個人ドライバーが少なく、地域の足としての役割を十分に果たせない可能性があります。
かといって、ドライバーのボランティア精神や補助金に頼るビジネスモデルにするのも限界があり、困難な問題です。
ライドシェアのあり方について最適な解はまだ見いだせていませんが、現状を放置したり、既存の事業者にだけ目を向けるのではなく、ニーズに応える対応をどう現実的な形に再構築して地域交通を機能させるかが重要です。
近々、日本の経済成長を実現するための議員勉強会を立ち上げる予定ですが、交通分野の主要な議題として、地域公共交通のあり方も議論していきたいと考えています。
スタッフ日記「ワクワクする乗り物」
乗り物好きとしてはローカル鉄道や路線バスが最近次々廃止に追い込まれているのが本当に残念です。公共の乗り物は地域の顔です。街から乗り物が失われると、日常の移動に困るのはもちろんですが、その街が放つワクワク感も失われると思います。
電車やバスの他にも、ケーブルカー、リフトなどワクワクする乗り物はいろいろありますが、個人的にはロープウェイの浮遊感、高度感が気に入っています。最近も、中央アルプスにある日本一の高低差を誇るロープウェイに乗りましたが、断崖絶壁を下に見ながらぐんぐん高度を上げ、途中の鉄塔でぐらりと揺れるのは、さながらジェットコースターのようなスリルでした。
しかし、ロープウェイも他の交通の例に漏れず、老朽化もあいまって、大阪金剛山ロープウェイ廃止など、各地で姿を消しつつあり、なんとも寂しい状況です。
一方、山ではなく、都市交通としてロープウェイを利用しようという試みが始まっており、横浜では都市の中を循環するロープウェイが2年前から運行を始めました。韓国の釜山でも、都市の景色を楽しむ海上ロープウェイが大人気だそうです。
地下鉄や路面電車だけでなく、これからのコンパクトシティでは、街の景色を上から見ながら渋滞知らずで悠々と移動できるロープウェイも、住民の移動と観光の両面から需要があるのではないかと思います。
住む人、訪れる人をワクワクさせてくれる新しいロープウェイが、日本中でどんどんオープンして欲しいと思います。(アタリ)