消費税転嫁対策に対する修正提言
国会は今、川口委員長の解任決議を巡って参院予算委で与党欠席のまま審議が行われるという異様な状態。
しかし一方、休み明けで法案審議再開を待っている状況でもある。
所属する経産委ではいわゆる「消費税転嫁対策法案」が審議中でもあるが、質疑の機会はまだわからないが問題点と提言を示しておきたい。
この転嫁対策法案は、民主党政権時に準備していた法案がベースだ。
消費税率引き上げ時に大手販売店が業者に対して「消費税は飲み込め」、といわゆる買いたたき等を行うことを規制するものである。そのこと自体は当然必要な措置なのだが、自民党政権下で付加された「消費税還元セールの禁止」などの表示規制については、問題が多い。
第8条1号では「消費税は当店が負担しています」、2号では「消費税相当分値引きします」、3号では「消費税相当分、次回の購入に利用できるポイントを付与します」などの表示を禁止している。
消費税還元セールについては、1997年の消費税5%への引き上げ後、消費が冷え込む中、1998年11月に大手スーパーが「消費税還元セール」を行い、売上高が前年同期比3~6割増と大幅な伸びを示した。
消費税引き上げに伴い小売りとしては、売り上げ減を防ぐために必死にプロモーションを考えるのは当然だ。それだけに、政府としてはガイドライン等ならまだしも、法律を用いて禁止することには慎重であるべきだ。
第8条で消費税還元セールを禁止する立法趣旨は、政府答弁によると、(1)消費者に消費税が転嫁されていないような誤認を生じさせるおそれ、(2)大手スーパー周辺の商店街が追従して値引きをせざるを得なくなるおそれ、(3)大手スーパーによる納入業者に対する買いたたきを誘発するおそれ、これらを回避するためとの説明がされている。
しかし、上記(2)(3)については、上記のように98年11月に大手スーパーによる消費税還元セールが行われた際に大手スーパーの売り上げは上がったが、周辺の商店街の売上ないしは利益が下がった、あるいは、納入業者への買いたたきが行われ納入業者の売上げないしは利益が下がった等のデータはない。
根拠なきまま推測の上で政府は規制を行なおうとしている。また、実際、商店街を歩いて意見を聞いてみると、法律によって消費税還元セールを禁止することについては否定的な意見が多く聞かれる。
政府の言い分を整理すると主たる規制目的は、(1)「消費者に消費税が転嫁されていないような誤認を生じさせるおそれ」の回避のみだ。本来自由であるべき企業の営業活動を縛るのだから、規制手段は、規制目的を実現する上で可能な限り必要最小限度のものであるべきだ。
1号は、「消費税を転嫁していない旨」の表示を規制するものであり、消費者の誤認防止の目的と整合的と言える。しかし、2号と3号については、「消費税に相当する額」の減額、「消費税に関連」する経済上の利益提供の表示を禁止するものであり、消費税に関する誤認防止という規制目的との関連性が薄くなることは否めない。
また、これまでの国会審議における政府答弁や大臣発言等をみると、当初、政府は、「3%値下げ」等の消費税の文字が入っていない値下げ表示が禁止されるかについて、「消費税という文言を用いていない場合も(中略)一般消費者が(中略)そういうふうに認識するものは禁止されるというふうに考えております」(4月24日衆経産委における菅久政府参考人発言)と説明し、禁止される可能性を示唆していた。
しかし2日後には「『3%値下げ』といった表示だけで禁止するのは無理がある」(4月26日麻生財務大臣の記者会見発言)と説明を修正している。これらの説明の変遷は、第8条の表示規制の規制目的と規制手段の曖昧さ、さらに2号及び3号の規定の不明確さに起因するものだ。
規制目的と規制手段の関係、これまでの政府答弁、さらに、行政による恣意的運用のおそれや事業者の販売促進活動への萎縮効果の回避等を踏まえ、僕としては法案第8条について、以下の修正案を提言したい。
【案1】(2号及び3号の削除)
第8条 事業者は、平成二十六年四月一日以後における自己の供給する商品又は役務の取引について、その相手方に消費税を転嫁していない旨の表示をしてはならない。
【案2】(2号及び3号について、規制対象を「消費税」の記載がある場合に限定)
第8条 事業者は、平成二十六年四月一日以後における自己の供給する商品又は役務の取引について、次に掲げる表示をしてはならない。
一 取引の相手方に消費税を転嫁していない旨の表示
二 取引の相手方が負担すべき消費税に相当する額の全部又は一部を対価の額から減ずる旨の表示(「消費税」の文字が記載されているものに限る)
三 前二号に掲げるもののほか、消費税に関連して取引の相手方に経済上の利益を提供する旨の表示として内閣府令で定めるもの(「消費税」の文字が記載されているものに限る)
【案3】(2号及び3号について、規制対象を消費税率引上げとの関連が類推される場合に限定)
第8条 事業者は、平成二十六年四月一日以後における自己の供給する商品又は役務の取引について、次に掲げる表示をしてはならない。
一 取引の相手方に消費税を転嫁していない旨の表示
二 取引の相手方が負担すべき消費税に相当する額の全部又は一部を対価の額から減ずる旨の表示であって今次の消費税率引上げとの関連を類推させる態様で示されるもの
三 前二号に掲げるもののほか、取引の相手方に経済上の利益を提供する旨の表示であって今次の消費税率引上げとの関連を類推させる態様で示されるものとして内閣府令で定めるもの
こうした提言を政府にぶつけることによって、生活者目線に立った民主党の存在意義が問われると思う。
法案の審議はこれから終盤を迎えるが、政策目的をより合理的な方法で実現できるよう、提案型の国会論戦を目指して審議に臨みたい。