第702号 汚染水処理問題の混迷

2015年8月29日 (土) ─

 福島第一原発の汚染水処理は、解決の目途が立っていないにもかかわらず、報道頻度も減り、国民の関心から遠ざかりつつあると言われています。

◆「サブドレン計画」とは
 そうした中、福島漁連は東電の「サブドレン計画」の容認を正式決定するとともに、要望書を国と東電に提出しました。

 現在、福島第一原発建屋内には、1日あたり約300㌧もの地下水が流入して汚染水が増加し続けており、タンク貯留だけでは対応しきれなくなっています。

 その対処として「サブドレン計画」では、まず、建屋周辺に井戸を掘って地下水を汲み上げ水質検査を行います。そして専用浄化設備で放射性物質の浄化をした後、再び水質検査を行って結果を検証し、海洋に放出する予定です。

 しかし、サブドレンからたびたび高濃度汚染水が検出されるなど、この計画にも汚染状況が不安定で不明確であるという懸念があります。

 政府はサブドレンから高濃度の放射性物質が検出された場合には、①即座に地下水の汲み上げを停止して原因を究明する、②放射性濃度が運用目標以上の場合は、目標を下回るまで浄化を繰り返すので、高濃度の汚染水が海洋に放出することはない、と説明しています。しかし、汚染状況が不安定な中、高濃度汚染水が検出されるたびに汲み上げを止めて調査し、目標未満になるまで浄化を繰り返していては、サイクルがうまく回るはずはありません。

 また、浄化するとはいえ、場所によっては高濃度放射性物質が検出されているサブドレンからの汲み上げ水を海洋に放出することは、漁業への風評被害を生じさせかねません。

 

◆漁業関係者のジレンマ
 福島漁連は、国と東電に対する要望書の中で、(サブドレンではなく)建屋内の水は処理した後もタンクで責任を持って管理し、海洋放出は絶対に行わないこと、という要望を出しています。高濃度汚染水の海洋放出は、いくら浄化したとしても、国民や漁民の理解が得られないと考えるからです。

 建屋内の汚染水を処理した後に残る、トリチウムを含む水の取り扱いについては、現在専門家により様々な技術的な選択肢、効果等を検証しているようですが、どのような処理方法であれ、まずは漁業関係者を含む関係者への丁寧な説明など必要な取組を行い、理解を得たうえで行うことが重要です。

 しかし東電は、サブドレン計画を認めれば、いずれ建屋内の高濃度汚染水も処理後に海洋放出することになるのではないか、との懸念を福島漁連が示したところ、「今現在はサブドレンのみ」と述べ、あたかも今後、建屋内の汚染水も浄化後に放出することに含みを持たせるかのような姿勢を示しました。

 漁業関係者は、浄化水の海洋放出に疑問と不安を抱きながらも、汚染水保管問題が解決しない限り漁業再興もあり得ない、というジレンマに陥っており、今回の漁連の対応は、苦渋の決断の表れと言えます。このことを政府と東電はしっかりと認識すべきであり、放出する浄化水の量は最低限にとどめ、随時放出による水質のデータ等を漁業関係者に提示するなどの最大限の努力を行うよう強く求めて参ります。     (了)

スタッフ日記「笑顔の花飾り」
 先日、フラワーアーティストの大谷幸生さんのお話会に行きました。

 大谷さんはハワイ発祥の花飾り「レイ」を作るレイメイカーとして活躍されています。日本各地でレイを作ったり、教えたりしながら、花の栽培農家や全国の自治体との交流も積極的に行っていらっしゃいます。

 私が大谷さんと出会ったのは、イベントでお客さんに花の髪飾りを作られている時でした。その後「笑顔の花飾り」という著書を読み、ハワイや南国の花ではなく、日本全国、その土地の花でレイを編む旅をされていることを知りました。

 レイメイキングは、土地の花を使って作り上げ、その土地の人に、そして最後は花の育った大地へ返すことが原則です。レイを作る楽しさを伝える立場になった大谷さんは、いつしか「日本の花でレイを作ること」に向き合わなくちゃいけないと考えるようになり、3年近くにわたる旅をはじめたのだそうです。 各地の花を訪ねてみると、高齢化や輸入品との価格競争などで農家が減ってしまったり、生産自体が中止になってしまったりという話をよく耳にするそうです。それでも旅ではたくさんの人たちと出会います。収穫で大忙しの農家の人も、ちょっとぶっきらぼうな職人さんも、できあがったレイをかけると最初は照れくさそうに、でもみんなにっこり笑ってくれる―。最初はいかに綺麗なレイを編むかということにとらわれていたけれど、ただ花を編むのではなく、この笑顔をつないでいきたい、そんな思いに大谷さんは気づいたそうです。

 旅はこれからもまだまだ続いていくでしょう。この笑顔の花飾りがもっともっとつながり、大きく広がっていくことを願っています。(まーちゃん)

第702号 汚染水処理問題の混迷