経済発展のための原子力・エネルギー政策

2011年7月24日 (日) ─

 電力・エネルギー政策を経済政策としてとらえるべきであると述べてきた。ここで、改めて原発も含めた原子力・エネルギー政策について整理したい。

1.今の政府の取り組みについて欠けているものは何か

 ただ単に、政府に対して「ダメだ!ダメだ!」の大合唱ではなく、政策論としての問題点を明らかにすべきである。

1)言葉だけの「脱・原発依存」
 総理が発言した「脱・原発依存」は、残念ながら言葉が踊っているだけで、どのようなスケジュール感で、何をしようとしているのか不明確だ。原発を再稼働させるのかどうか不明確なまま、ただ単に自然再生エネルギー推進を唱えるなど、エネルギー政策に一貫性がなく、国民や経済界に不安を与える状況となっていると言わざるを得ない。

2)崩壊したままの「安全神話」
 福島第一原発事故の反省に基づく課題整理が行われておらず、中途半端な安全対策により、安全宣言を行っている。

 6月のIAEA閣僚級会議での事故報告書にて一部、整理されてはいるものの、事故調査委員会、安全委員会など客観的な視点からのチェックが必要なのは言うまでもない。

 そして、どのように原発の安全を確保していくのか、プロセスとスケジュールの全体像が未だ示されていない。このため、中途半端で場当たり的な対応と受け止められ、再稼働に向けた国民の信用を失う結果となってしまっている。

2.基本的な考え方
 世界に誇る日本の技術力を生かし、産官学が連携するなど、「日本の底力」を結集することにより、危機的状況を乗り越え、経済発展につなげる政策を推進することを基本におかなければならない。

1)原子力政策
【短期:概ね1年程度】
 福島第一原発の事故の反省に基づく安全上の課題を明確化するとともに、必要に応じて現在の基準を見直すことにより、世界一の安全基準を確立することを目指すべきである。

 個別の原発の取り扱いについては、上記安全上の課題に対する安全対策及び実施スケジュールを明らかにしたアクションプログラムを原発毎に策定した上で、原発再開の時期について地元自治体と調整を開始する。さらに経産省から保安院を分離し、他の省庁の原子力部門を含める形で原子力行政を一元化するとともに、危機管理能力を兼ね備える「原子力規制庁(仮称)」を創設すべきである。

 その際、単なる許認可行政に過ぎなかった国の位置づけを改め、より主体的な責任を担うとともに、地方公共団体、事業者との間の責任関係を明確にすることにより、これまでの「国策民営」から「国責民営」への転換を図ることを高らかに宣言しなければならない。

【中長期:概ね10年程度】
 世界一の安全基準に基づき、他の国に追随を許さない安全性、競争力を確保することを前提とした上で、海外への原発輸出を容認し、成長産業として引き続き国がバックアップするという選択肢を、今の時点で否定すべきではない。

 当面、新規の原発建設は凍結し、原発への依存度を低下させるが、上記の安全対策・体制が確立された段階で、その時の電力需給状況を踏まえ、新規原発建設を含めた国内の原発継続の是非について、国民的議論の上で判断すべきである。資源小国である我が国が、エネルギーポートフォリオを自ら放棄することは安全保障上の課題にもなりうる。現時点での知見をもって全てだとするような、将来のイノベーションの否定は、今日までの発展という人類の歴史を軽視するものだ。中長期的に、我が国が到達し得る科学と技術の革新を実現した新たな時代に、時の国民的合意のもとに決すべきことである。

2)エネルギー政策
【短期:概ね1年程度】
 高度経済成長、生活レベル向上に伴う電力のピーク需要増大に対して、20世紀は、原子力、火力、水力など電源開発で対応した時代だった。

 今後とも持続的な経済成長を支えるため、供給面において自然再生エネルギーなど新エネルギーの創出による多様化を図るほか、需要面において一層の省エネを推進し、先進的な需要管理(DSMデマンドサイドマネジメント)を実現するなど、21世紀はデマンドレスポンス、すなわち供給のみならず需要も含めた両面において、技術力・創意工夫で対応する時代であることを認識しなければならない。

 その際、規制強化や国民への負担増を強いる手法に頼るのではなく、新たな技術の導入促進、地域ぐるみの取り組みを支援するなど、国民一人一人の創意工夫を育て、インセンティブを与える仕組みを取り入れることが重要だ。

 供給面の新エネルギー創出に関しては、電力会社による買い取り促進策のほか、技術革新を促すためのメリハリのきいた法人減税を行うなど税制面での工夫も必要である。

 先進的な需要管理の実現に関しては、電力需要のピークカットを最大の課題ととらえ、個別施設、住宅に対する蓄電池、スマートメーター導入促進のための補助制度を創設するほか、大口需要者に関しては蓄電池や自立電源設備の義務化並びに逆潮規制の緩和を検討すべきである。

【中長期:概ね10年程度】
 短期的な施策を集中的に実施することにより、民間の技術開発、投資促進を喚起し、国内の新エネルギー導入コストの低下を実現するほか、これらの分野を成長産業として、国際競争力強化を目指す。

 街づくり、交通、住宅を一体的にとらえ、社会全体のエネルギーシステムを効率化するため、集約型都市構造の実現を目指すほか、公共交通機関の利用促進などエネルギー効率のよい交通体系の実現を目指す。

 今回の震災で明らかになった、電力、ガソリン、天然ガスなどエネルギー供給網の脆弱性を解消するため、供給体制の多重化を図るほか、広域的なエネルギーの相互供給による災害時の安定性確保、電力のピークカットを可能とするため、東西日本間の周波数変換問題に関しては、直流送電網を危機管理のための社会資本(インフラ)整備として位置づけ、公共事業としての実施を検討していくべきである。これにより、本格的な大規模集中型電源から、小規模分散型電源への転換が可能となるのである。

 こうした、政策の基本に立って将来像を描くことが求められている。

経済発展のための原子力・エネルギー政策