第833号 南北事態急変に備えよ

2018年5月5日 (土) ─

 4月27日、韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の間で南北首脳会談が行われ、両首脳は、「南北は完全な非核化を通じて、核無き朝鮮半島を実現する」との文言を盛り込んだ共同宣言に署名しました。

◆米朝会談で一気に進展か
 これらの南北首脳会談の結果に関しては、今まで繰り返されてきたパフォーマンスに過ぎず、北朝鮮による時間稼ぎのみの表面的外交で、融和ムードに騙されてはいけないとの論調も目立ちます。しかし、最終的な南北和平につながらなかった今までの南北首脳会談とは異なり、この後すぐに、和平と非核化の鍵を握るトランプ大統領と金正恩委員長の間で首脳会談が開かれることを重く見なければなりません。歴代米大統領は北朝鮮首脳との直接会談は行わず、南北関係の大胆な変化にも慎重な姿勢を貫いてきました。

 一方、トランプ大統領は、政権幹部の慎重な意見を振り切って、自らの強い意思で金正恩委員長との首脳会談を決めたとされています。また、側近の相次ぐ辞任・解任や、対中東・ロシア外交などで政権運営は順調とは言えず、支持率が低迷する中、今秋の中間選挙を控えて大きな外交上の成果を欲しているのは明白です。歴代大統領のセオリーが通用しないトランプ大統領だからこそ、米朝首脳会談で、自らの裁量で一気に現在休戦中の朝鮮戦争の終結に道筋をつけることは十分にあり得ます。

 そしてそれは、緊張緩和による制裁解除と経済支援により体制を強化したい北朝鮮と、事実上、北朝鮮の後ろ盾である中国が、朝鮮半島を安定させて東アジアにおける政治的地位を確保しようと画策する思惑とも合致します。米中南北の思惑が合致する中、米国は、米朝間の交渉では難航が予想される北朝鮮の核兵器の完全かつ検証可能な不可逆的廃絶(CVID)については、その判断に向けて中国を絡ませることで、米国自身は極東からの一部撤収を選択肢に置いている可能性があります。「世界の覇権国家」から「米国第一」に変わることがトランプ政権の意思であり、中国との分担を視野に入れてのCVIDは十分に考えられます。

◆求められる新たな思考
 このように北朝鮮問題は、米中を巻き込んで東アジアの安全保障環境を一変させてしまう可能性を持っています。

 安倍政権の外交姿勢は、北朝鮮の核とミサイルの脅威に対し、経済制裁などで圧力を強め、有事を想定して米軍との協力体制を強化するというものでした。安保法制整備の大きな意図の一つには、朝鮮半島における武力衝突の有事が念頭にあったと思われます。もちろん国内においてミサイルなどへの備えを怠るべきではありませんが、米朝関係がこの数十年間の硬直状態のまま推移すると考えるだけでは事態の推移に対応できなくなる恐れがあります。

 仮に米朝の和解で朝鮮戦争が完全に終結した場合、北朝鮮に対してどのような外交姿勢で臨むのか。米軍が朝鮮半島での規模を縮小、または撤退した場合に在日米軍との関係をいかに捉えなおすのか。中国を含めた東アジアでの政治的立場をどう模索するのか。米国と一体化して圧力をかけ続ければそれで足るとしていた日本外交にも変化が求められ、新しいビジョンの提示が必要になると考えています。(了)

 

森ちゃん日記「奈良リノベーション」
 昨年の3月に老朽化などを理由に閉鎖された旧奈良少年刑務所が、ホテルなどの複合施設として生まれ変わるための工事が今年度からスタートします。国の重要文化財にも指定された歴史的建造物は、明治の五代監獄の一つとして、奈良が唯一その建造物をほぼそのままに保存してきました。現役として運用されてきた刑務所をホテルとして活用する事業は全国初で、奈良が歴史を守り、受け継いできた産物の一つと言えるでしょう。

 また、奈良市北西部の同地は「きたまち」として親しまれ、観光の隠れスポットとしても注目を集めてきたエリアです。文化財のリノベーションホテル、監獄資料館や天然温泉施、レストランエリアなどへの改装が予定されており、隣接する鴻ノ池陸上競技場を含めた、見て、動いて、体験して、楽しむ、体験型観光の振興にも期待しています。

 伝統的な歴史文化から新しい奈良を創る、共存のリノベーションから、民間企業による斬新なアイディアを取り入れる事で、今後の歴史的建造物の保存、活用にも積極的な提案が行われていく事を望んでいます。

 地域と共存する歴史に直接触れ、体験することができる奈良スポットへのリノベーションこそが、見学型の観光から脱却する第一歩だと感じました。

第833号 南北事態急変に備えよ